共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

北極層雲の生成・維持機構の解明
研究代表者/所属 防衛大学校地球海洋学科
研究代表者/職名 助教授
研究代表者/氏名 中西幹郎

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

藤吉康志 北大低温研 教授

2

川島正行 北大低温研 助手

研究目的  北極海に出現する層雲の形成と維持の機構や、大気境界層内の不安定現象や対流の構造を調べることができる数値モデルの構築を目的とし、その基本設計とプロトタイプの作成を行う。基本設計には、数値モデルの内容だけでなく、プログラミング言語やコーディング方法も含まれる。ただし、今回は乱流過程のモデルを重視し、放射過程のモデルは既存モデルの調査だけで必ずしも実装は行わない。作成したプロトタイプを用いて、数値モデルの検証用データとしてよく利用されるワンガラ実験との比較計算を実施し、放射がほとんど効かない晴天の条件下では十分な性能を持つことを確認する。
  
研究内容・成果  数値モデルは、
(1)プログラムの分割(並列化)を行う。記述の平易さや移植性を考慮し、HPF(High Performance Fortran)言語を使う。
(2)配列はHPFの効率を上げるため、分割する次元(y方向)を一番外側にする。
(3)結果の出力は要素ごとに1ファイルとする。
(4)数値モデルは仮定の少ないLES(Large-Eddy Simulation)とする。サブグリッドモデルは標準モデル、Sullivan et al. (1994, Bound.-Layer Meteor.)のモデルのどちらかを選択できるようにする。
(5)下部のフラックスは一定値、時間変化値のどちらかを選択できるようにする。
(6)放射過程のモデルは既存モデルの調査のみとする。
の方針に基づいて作成した。概ね方針どおり作成することができたが、CPUが増えるにつれて並列化率が悪くなるという欠点が判明した。これは、FFTの計算に伴う通信が多いためと考えられる。よりパフォーマンスを上げるにはFFTの改善が望まれる。放射過程のモデルはNCAR、NASAなどが公開しているモデルの実装を検討中である。
 作成したプログラムを用いて、ワンガラ実験との比較計算を行った。計算条件は、
(1)格子間隔40mで、格子数は125×125×50
(2)サブグリッドモデルは標準モデルで、下部のフラックスはWyngaard and Coté (1974, Bound.-Layer Meteor.)による時間の関数
(3)地衡風と温度風はDeardorff (1974, Bound.-Layer Meteor.)が単純化した観測値
(4)初期値はワンガラ実験Day 33の0900 LSTの観測値
(5)タイムステップ2秒で1600 LSTまで積分
のとおりである。ワンガラ実験に見られた1000mを超える対流混合層の発達を、LESはほぼ再現した。比湿や風の分布も良く再現した。LESは、観測では計測することが難しい対流の3次元分布を示すことができる。それによると、高度260mにおける水平分布にセル状の構造が見える。そのセルの縁を形作る狭い上昇流域は高温域と一致している。セルの直径は混合層の厚さの概ね1〜3倍であった。鉛直分布では、組織化された上昇流域が2つ見え、強い上昇流が上空の安定層に貫入しているのがわかる。混合層上端のその周りには、暖かな気塊を伴った緩やかな下降流が見える。
 このように、LESは混合層内の対流運動や混合層上端における上空の高温位の気塊のエントレインメントの様子を詳細に表現する。今後、層雲の計算を実施するとともに、検討中の放射過程のモデルを導入する予定である。
  
成果となる論文・学会発表等