共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

原始惑星系円盤における低温物質進化
研究代表者/所属 筑波大学計算科学研究センター
研究代表者/職名 講師
研究代表者/氏名 中本泰史

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

保田誠司 筑波大学数理物質科学研究科 修士課程2年

2

三浦均 筑波大学数理物質科学研究科 博士課程3年

3

山本哲生 北大低温研

研究目的 本研究では、惑星形成以前の原始惑星系円盤内における低温物質の進化過程を明らかにすることを目的とする。特に、原始惑星系円盤内での一時的な加熱現象によって氷やシリケイトなどの固体微粒子(ダスト)が結晶化される過程に焦点を絞る。結晶化に対するモデルを作成し、結晶化の室内実験結果と比較する。さらにこの結果を原始惑星系円盤内のダストに適用し、氷やシリケイトダストの進化過程を明らかにすることを目指す。
  
研究内容・成果 まず最初に,結晶化を評価する数値的指標を用い,アモルファスシリケイトダスト粒子を結晶化する衝撃波の性質を明らかにした.次にそのような性質を持つ衝撃波の発生可能性を検討した.その結果,観測結果を説明し得るような衝撃波が原始惑星系円盤内に生成される可能性があることがわかった.

アモルファスシリケイトダスト粒子の結晶化を評価するために,酸化マグネシウムのアモルファス粉末を出発物質とした結晶化実験の結果を用いた.この結果をもとにして提唱されたシリケイト進化指標は,ダスト粒子の温度履歴を用いて計算することが出来る.したがって,衝撃波加熱モデルに基づいて計算されたダストの温度履歴を用い,そのダスト粒子が結晶化するかどうかを評価できる.まずこのような計算を行い,ダスト粒子が結晶化する衝撃波の条件を明らかにした.

次に,そのような条件を満たす衝撃波が原始惑星系円盤内に発生する可能性を検討した.衝撃波発生機構としては,(1)円盤自身の自己重力不安定に基づく渦状衝撃波,(2)大質量惑星の誕生に伴う渦状衝撃波,(3)高速微惑星前面に形成されるバウショック,(4)落下してきた分子雲片によって円盤表面に形成される降着衝撃波,などが従来考えられてきたが,新たに,(5)中心星近傍で発生するX線フレアに伴う星風が円盤表面に形成する衝撃波,(6)恒星遭遇によって軌道を乱されたカイパーベルト起源天体が高速微惑星となり,その前面に形成されるバウショック,などの可能性を考え,シリケイトダスト粒子の結晶化を考察した.その結果,それぞれの衝撃波発生機構には特徴があり,ダスト粒子を結晶化しやすい場所が異なることが分かった.一般に,衝撃波によって発生するエネルギーは中心星に近い方が大きいので,結晶化の起こりやすさも,中心星に近い方が高い.一方,原始惑星系円盤の観測や太陽系内のカイパーベルト天体および彗星などの観測から,中心星から離れた場所にも結晶化シリケイトが存在していることが分かってきた.本研究での検討結果では,中心星から最も離れた場所で結晶化を起こす可能性を持つ機構は(5)ないし(6)となった.ただし,これらの機構が本当にその場所でのシリケイト結晶化に寄与するかどうかを見るためには,もっと詳細な検討が必要である.

今後の課題としては,次の2つが挙げられる.(A) X線フレアに伴う衝撃波が中心星から遠方でも発生するかどうかを,より詳細な数値計算を用いて確かめること,(B) 加熱による結晶化現象を熱力学・統計力学などのミクロな物理を用いて理解しモデル化すること.これらの課題に,引き続き共同研究で取り組みたいと考えている.
  
成果となる論文・学会発表等 中本泰史,三浦均「衝撃波加熱によるシリケイトダストの結晶化可能性」,Grain Formation Workshop (京都薬科大学),2006年1月13日-14日
Nakamoto, T. and Miura, H.「Crystallization of Silicate Dust Particles by Shock Waves」, Protostars and Planets V (Hawaii), 2005年10月24日-28日
中本泰史,三浦均「恒星遭遇による微惑星の散乱とダストの衝撃波加熱・結晶化」,日本惑星科学会 (会津),2005年9月20日-22日
中本泰史, 三浦均「原始惑星系円盤内ダストの衝撃波加熱による結晶化の可能性」, 地球惑星科学関連合同大会 (千葉), 2005年5月22日