共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

スレオニンの氷界面吸着による結晶成長抑制機構の研究
研究代表者/所属 産業技術総合研究所
研究代表者/職名 主任研究員
研究代表者/氏名 灘浩樹

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

古川義純 北大低温研

研究目的 水に溶け込んだ不純物有機分子が水の結晶化を抑制する機構をミクロな視点から明らかにすることを目的とする。本研究では、極域に生息する魚の体液に含まれる不凍糖タンパク質を構成するスレオニン残基に注目し、その氷界面への吸着構造や吸着エネルギーを調べることにより、不凍糖タンパク質が有する水の結晶化抑制効果との関連性を検討する。本研究では、スレオニン残基に関する分子シミュレーションと不凍糖タンパク質に関する実験との双方からのアプローチを行う。
  
研究内容・成果 (1) これまでに提案されてきた生体分子系の分子力場パラメータを参照することにより、不凍糖タンパク質に含まれるスレオニン残基の各種パラメータ(原子間距離、炭素原子間角度、電荷量、近接相互作用パラメータなど)を決定した。また、申請者らが開発した水の結晶化を調べるための水分子モデルとスレオニン残基に働く相互作用パラメータを決定した。
(2) スレオニンとそれを取り囲む水分子集団からなる系のモンテカルロシミュレーションを実施し、スレオニンの各基への水分子の吸着エネルギーを解析した。OH基やアミノ基周辺へ吸着した水分子がエネルギー的に比較的安定であることがわかった。しかし、スレオニンを取り囲んだ水分子の配列や水分子間の水素結合エネルギーには、場所による大きな違いは見られなかった。
(3) 理想的な氷{1010}表面へのスレオニンの安定吸着構造を、様々なスレオニンの吸着状態のエネルギー計算を行うことにより考察した。OH基やアミノ基など水分子との引力相互作用が強い部分が表面に吸着している状態がエネルギー的に比較的安定であった。
(4) 不凍糖タンパク質を含む水からの氷の成長実験の結果、氷{1010}面の成長が強く抑制されることがわかった。しかし、糖鎖を除いたタンパク質は不凍効果を強く示さない可能性が示唆されている。
(5) 氷{1010}-水界面の分子動力学計算を行い、幾何学的に荒れた界面構造、界面上の水素結合網の再配列により成長機構などを明らかにした。
本研究では不凍糖タンパク質中のスレオニン残基に焦点を当て、その氷界面へのエネルギー的安定吸着状態を考察するための基礎的データを得た。しかしながら、本研究から得られた結果は、マクロな水の結晶化抑制を説明するには未だ至らない。今後、複数のアミノ酸配列をモデル化した系のシミュレーションや糖鎖の効果を調べるためのシミュレーションが重要であると考えられる。
  
成果となる論文・学会発表等 H. Nada and Y. Furukawa, Anisotropiy in growth kinetics at interfaces between proton-disordered hexagonal ice and water: a molecular dynamics study using the six-site model of H2O, Journal of Crystal Growth. 283. 242-256. 2005