共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

低温域における奇数員飽和脂肪酸の応力誘起固相転移
研究代表者/所属 大阪大学大学院理学研究科
研究代表者/職名 助教授
研究代表者/氏名 金子文俊

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

川口辰也 大阪大学大学院理学研究科 助手

2

古川義純 北大低温研 助教授

研究目的 私たちは、低温科学研究所との共同研究を通じて、低温域における偶数員n-アルカン単結晶に応力を加えた際の双晶化について研究を行ってきた。これは、単結晶に引っ張り応力を加えると結晶の伸長に比例して双晶化が進行し、また逆向きの応力により元の単結晶状態に回復するという現象である。これまでに、n-アルカンでは室温から-50℃までの範囲において応力誘起双晶化が確認している。最もシンプルな鎖状分子で見いだされたこの現象は、炭化水素鎖を含む脂質や高分子などの物性と深い関連性があると考えられる。本研究では、多彩な可逆相転移を示す偶数員飽和脂肪酸も同様な応力誘起構造変化が生じるかについて調べた。
  
研究内容・成果 本年度は、15個の炭素原子をもつ奇数員飽和脂肪酸ペンタデカン酸を中心に調べた。偶数員脂肪酸には見られない温度変化による可逆相転移が二種類もペンタデカン酸には見出されており、特異的ともいえる外的な条件変化に応じて構造変化が生じる性質に注目したためである。室温付近では、T//型副格子を形成するA'型が安定形である。このT//副格子は、炭化水素鎖同士が集合して形成する局所的な周期構造で、全ての炭化水素鎖の骨格平面が平行の配置の配置にある。A'型の単結晶は、一辺が長く伸びた平行四辺形の板状晶である。この板状晶の長辺の方向が、T//型副格子のas軸方向(骨格平面に対してほぼ垂直)と対応している。
 18から28までの偶数個の炭素原子のn-アルカンでは、奇数脂肪酸のA'//型と同様にT//型副格子を形成し、そのas軸に平行な引っ張り応力を印可した場合には、双晶形成が行われ、新しい配向状態が発生した領域は、結晶の伸長に合わせて拡大していく。同様の応力誘起双晶化の可能性をペンタデカン酸のA'型において探ったが、as軸に平行な引っ張り応力は全て単結晶自体の破断につながり、脆性破壊としての特徴を示した。n-アルカンと炭化水素鎖のパッキングは同じでありながら、末端基がメチル基からカルボキシル基に変化するだけで双晶化や固相相転移による構造変化の進行は全く認められなかった。しかし一方では、単結晶の一部に板状晶の厚み方向へ印可した局所的な応力は固相相転移による構造変化を誘起することが、これまでに明らかになっている。印可する応力のタイプ、構造変化への末端基の影響等について今後検討を進める必要がある。
 ペンタデカン酸のA'型には、二つの固相状態が属しており、温度変化によりこの二つの固相状態(高温相A'hと低温相A'l)間で可逆固相転移を行うことが明らかになっている。共にT//型の副格子を形成し、結晶軸と副格子の配置も同様である。このA'hとA'lの間の固相相転移は、まずas軸に平行に細く伸びた新しい領域が発生し、それが側面方向に広がることによって進行していく。この固相相転移に対する伸長応力の影響について調べた。固相相転移が進行する側面方向への伸長応力を印可することにより、相転移点よりも低温においても低温相より高温相への相転移が誘起される現象を観察することができた。しかし、固相相転移を示さずに単結晶の破壊が発生する場合もあり、このA'hとA'lの間における可逆固相相転移おける応力の影響については、より詳細な研究が必要である。
  
成果となる論文・学会発表等