共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

低温環境における原油分解微生物群衆及び分解機能の解明
研究代表者/所属 北大低温研
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 福井学

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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濱村奈津子 モンタナ州立大学 主任研究員

研究目的 原油は、寒冷地を含むあらゆる地球環境を広く汚染している汚染物質の一つである。北極や南極の原油汚染土壌など寒冷圏汚染現場の浄化には、低温環境に適応した固有の微生物群が重要な役割を果たすことが報告されている。これまでに、グラム陰性や陽性菌に属する数多くの汚染物質分解菌が低温環境から単離されてきた。しかし、それらの菌の分解機構に関する知見は十分とはいえず、分解酵素の低温適応機構についても明らかにされていない。そこで本研究では、寒冷土壌中に存在する原油物質分解微生物の活性及びその多様性を解明し、in situで分解に関与している機能遺伝子を決定することを目的とする。
  
研究内容・成果 17年度に実施した北海道でのサンプリングにより、サロベツ及び石狩の非汚染土壌、豊富温泉の含油分温泉水、石狩油田の原油湧出土壌を採取した。豊富温泉と石狩油田サンプルの油分解析をGC-MSを用いて行った所、前者は多環芳香族を主要に含むが後者は直鎖及び分岐アルカンを主要に含む原油型の組成で、異なった油分組成であることが示された。また、これら原油湧出現場サンプル内の微生物群衆構造を分子生態学的手法により解析したところ、豊富温泉と石狩油田サンプルでは異なる微生物群が検出されたことから、異なる油分成分(芳香族vsアルカン成分)を炭素源として利用できる微生物群が集積している可能性が示唆された。
サロベツ及び石狩の非汚染土壌はモンタナ州(U.S.A.)の土壌とともに原油分解実験に用い、低温(4度、10度)での原油成分分解活性が確認された。原油に添加した14Cヘキサデカンの14CO2への代謝測定を行った所、60日間のインキュベーションでモンタナ土壌では〜50%、石狩とサロベツ土壌では100日間に30%と20%の14CO2への分解が測定された。個々の原油成分の分解過程は、GC-MSによりモニタリングした。また、原油分解活性に伴う微生物群衆構造の変化を分子生態学的手法により解析した。4度で最も高い分解活性を示したモンタナ土壌ではグラム陽性菌のRhodococcus erythropolis とグラム陰性菌のPseudomonas frederiksbergensisに近縁な菌が主要な菌として検出された。過去の25度で行った同様の実験では、Rhodococcus erythropolis のみが主要な菌として検出されたことから、このPseudomonas sp.は特に低温に適応した菌である可能性が示唆される。4度で活性を示した石狩土壌からは、グラム陽性菌のPseudonocardia sp. とFrankia sp. 、グラム陰性菌のBurkholderia sp. が主要な菌として検出された。
低温環境で原油分解に関与している微生物群を機能遺伝子レベルで特定するため、主要原油成分であるアルカンの分解に関与する酵素遺伝子をターゲットにしたPCR解析を行った。その結果、モンタナ土壌からグラム陽性及びグラム陰性菌に特異的なアルカン分解酵素遺伝子が検出された。今後、これらの機能遺伝子解析を進めるとともに、分子学的手法で特定された環境中で分解を担う微生物をターゲットに低温適応分解菌の単離を行う。
  
成果となる論文・学会発表等