共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

越冬性植物の寒冷環境適応機構に関する研究
研究代表者/所属 北大院農学研究科
研究代表者/職名 助教授
研究代表者/氏名 荒川圭太

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

河村幸男 岩手大 COE助教授

2

上村松生 岩手大農寒冷バイオシ 教授

3

長尾学 岩手大農寒冷バイオシス 研究員

4

藤川清三 北大院農学研究科 教授

5

内海泰弘 九州大院農学研究院 助手

6

落合正則 北大低温研 助手

研究目的 本研究では、植物における寒冷環境への適応機構ならびに寒冷環境に起因する環境刺激に対する応答機構を明らかにすることを主な目的とする。本年度は、(1)北方樹木の冬季誘導性蛋白質の機能評価と(2)酸性雪ストレスに対する越冬性作物の応答に関する研究の2つについて報告する。とくに(1)では、季節的な低温馴化過程で誘導されるシラカンバ木部由来のキチナーゼ様蛋白質の生理機能を検証した。また(2)では、冬小麦の緑葉組織切片を酸性溶液存在下で凍結融解することによって酸性雪ストレスをシミュレーションした実験結果を考察した。
  
研究内容・成果 本報告では、(1)北方樹木の冬季誘導性蛋白質の機能評価と(2)酸性雪ストレスに対する越冬性作物の応答性の2つに関する研究結果について以下に述べる。
(1)冬季に野外からシラカンバの5年生以下の若い枝を採取し、その木部組織から抽出した可溶性蛋白質画分の組成を調べると、夏季にはほとんど見られない多量のキチナーゼ様蛋白質が検出された。N末端アミノ酸配列や特異抗体との反応性などから判断すると、少なくとも5種類以上のアイソフォームが季節的低温馴化過程で誘導されることが予想された。そこで、キチン分解活性や抗菌活性を測定し、これらの冬季誘導性キチナーゼ様蛋白質におけるキチナーゼ活性の有無について検証した。夏季と冬季の木部組織由来の可溶性蛋白質画分を用いてエンド型キチン分解活性を測定すると、夏季に比べ冬季は約20倍も高い活性を示した。この結果はキチナーゼ様蛋白質がキチン分解活性を持つことを直接証明するものではないが、キチン分解活性とキチナーゼ様蛋白質含量の季節変化がよく対応するため、キチナーゼ様蛋白質による活性上昇と予想された。また、冬季の枝から調製した可溶性蛋白質画分を用いて、樹病の一種である胴枯れ病菌や幹辺材腐朽病菌に対する抗菌活性を調べたところ、この画分はこれらの菌糸の成長に対して強い阻害効果を示した。この結果より、キチナーゼ様蛋白質の多量の蓄積は、これらの樹病に対する抵抗性の付与や冬季での病原菌抵抗性の向上などに関連している可能性が考えられた。
(2)酸性雪ストレスのシミュレーション実験として、人為的に低温馴化させた冬小麦の緑葉を用いて硫酸共存下で凍結融解した後、試料の生存率を測定して植物への影響を評価した。その結果、共存する硫酸溶液がpH 2.0(約3 mM)の場合、凍結融解後の緑葉組織の生存率が著しく低下した。この酸性凍結処理は、酸性降下物を含む雪(いわゆる酸性雪)の降雪時の状況とは厳密には異なるが、地表面近くの積雪層中にて氷晶が再結晶化する過程や凍結融解を繰り返すような過程とは関連性があると考えられる。特に、氷晶の外側に局所的に濃縮される可能性の高い酸性物質(本実験では硫酸)と植物組織が長期間接触するにつれて、融解後の植物組織に傷害を引き起こす可能性が高くなるものと予想された。
 今後も引き続き植物の寒冷適応機構の解明に向けて、低温誘導性遺伝子・蛋白質の機能評価や酸性雪に対する応答機構など、関連する様々な実験をおこなっていく所存である。
  
成果となる論文・学会発表等 H. Inada, M. Nagao, S. Fujikawa, K. Arakawa. Influence of simulated acid snow stress on leaf tissue of wintering herbaceous plants, Plant Cell Physiol. (in press)