共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

一方向成長装置を使った熱物質拡散現象(ソーレ効果)の観察と可視化
研究代表者/所属 学習院大学計算機センター
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 横山悦郎

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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古川義純 北大低温研 助教授

研究目的 ソーレ効果と呼ばれる熱物質拡散現象とは、温度勾配が存在する2種類の混合気体・液体系において、混合物の部分的分離がおこる現象である。熱物質拡散現象の存在は、理論的に予言され、気体混合系で実験的に証明されている。しかし、液体系では、その分子レベルでの相互作用の複雑さからミクロな機構の理解はなされていない。また、実験によるソーレ係数の測定は、単純な混合液体以外はほとんどなされていない。特に、高分子・コロイド・両親媒性分子など、複雑な分子相互作用をもつ液体での測定は皆無である。本研究では、一方向成長装置と干渉顕微鏡を使って、空間に固定した温度勾配中で混合液体の分離現象を観察・測定する。

干渉縞画像 解析画像 
研究内容・成果 ソーレ効果は、オンサーガーの相反定理に基づく輸送現象式の非対角要素で表せ、一般に対角項に比べ無視できるほど小さい。従ってソーレ係数を求めるには、高精度な測定が必要である。一般に、正のソーレ効果の場合、高温領域に分子量の軽い分子が集まり、低温領域に重い分子が集まる。この密度の僅かな違いを、一方向成長装置を使って、干渉顕微鏡によって屈折率の分布を測定する。一方向成長装置とは、空間に固定した温度勾配の中を、溶液セルを一定速度で強制的に平行移動させる装置である。この溶液セルは、Mach-Zehnder干渉顕微鏡を使って、その場観察できる。そこで得られる干渉縞パターンの変化は、溶液セル内の温度と濃度の変化によって生じる屈折率分布を反映している。この干渉縞画像から位相情報を取り出し、そこから温度勾配による屈折率変化分を差し引くことにより、温度勾配中で混合液体の濃度分離現象を測定出来る。この干渉縞画像解析には、非常に高精度な手法が必要であり、我々が新たに開発した位相シフト解析法を用いる計画であった。
一方、我々は分子動力学法を使った混合液体系の熱物質拡散現象の解明に取り組んでいる。その結果,温度勾配下でブラウン運動を数値実験及び測定することが,ミクロなレベルでのソーレ効果の解明の重要な一歩であることを確認した。具体的には、レナード・ジョーンズ・ポテンシャルで相互作用している溶媒粒子系に、同じ相互作用する一個の異粒子を混入し、温度勾配下で、その異粒子の挙動を調べた。異粒子のサイズ、質量、形状を変えて、温度勾配空間での存在確率の依存性や、粒子のランダム・ウォーク・ノイズの性質を調べた。その結果、一個の粒子のサイズと質量の両方の効果が存在しないと、実験で得られているソーレ効果と一致しない結果を得た。この不一致の原因は、現在、検討中であり追実験を行う必要がある。また、17年度の一般共同研究として提案している「一方向温度勾配下でのブラウン運動の観察」では,分子動力学法を使った数値実験及び一方向成長装置と干渉顕微鏡を使って、空間に固定した温度勾配中でブラウン運動を観察し、その挙動を解析することを計画している。本年度、我々はその予備実験を行った。実験は3月中旬に航空機を使った微小重力下で行った。そこでは、純水中に直径20ミクロンのカーボン微粒子を少量混ぜ、その挙動を調べた。干渉縞画像とその解析画像を示す。画面の上下方向に1cm当たり60度の温度勾配がある。画面の横幅は約3mmであり、画面右上の物体は、熱電対である。解析画像から、ほぼ理想的に温度の勾配が存在することがわかる。粒子の挙動は、現在、解析中である。
干渉縞画像 解析画像