共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

昆虫休眠誘導の分子機構の解明
研究代表者/所属 北大低温研
研究代表者/職名 助手
研究代表者/氏名 島田公夫

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

松田祐介 関西学院大理工学部 助教授

2

山中明 山口大理学部 助教授

3

早川洋一 佐賀大学農学部 教授

研究目的 温帯以北の寒冷な地域や高地に生息する昆虫は、厳しい冬の寒さや食料の不足に耐えて、次世代の繁殖を保障するために、生活史のなかに休眠期を組み込むことを進化させた。本研究では複数種の昆虫の休眠誘導機構について分子レベルで解析し、その結果を比較することによって昆虫に共通の休眠誘導機構が存在するものかどうかを考察してみた。
  
研究内容・成果 ヨトウガ、ベニツチカメムシ、ハシリショウジョウバエについて、脳内ドーパミン濃度に注目して、休眠誘導との関連を比較した。ヨトウガは蛹で、ハシリショウジョウバエは幼虫で休眠し、ベニツチカメムシは成虫で生殖休眠を示す。これまでの研究によって、ヨトウガの蛹休眠は幼虫期の短日条件(昼が短く、夜が長い)で蛹休眠が誘導され、この短日経験中の幼虫、蛹の脳内ドーパミン濃度はコントロールの長日条件経験個体の脳内ドーパミンに比べ2〜4倍程度高いことが明らかになっている。さらに、長日経験個体においても、人工飼料に最終濃度1%のL-DOPAを混合し摂食による脳内ドーパミン濃度の上昇によって、人為的に蛹休眠を誘導することができることが確認されている。すなわち、ヨトウガ蛹休眠は脳内ドーパミンによって誘導されるものと解釈できる。この誘導機構がベニツチカメムシとハシリショウジョウバエの休眠誘導でも共通するものかどうかが、本研究の主題である。
 まず、ベニツチカメムシでは野外から採集した個体を材料にして解析を行った。6月中旬、佐賀市近郊の里山から採集した個体を室温(25℃)と低温(25℃から5℃まで5℃ずつ低下させ、最終的に5℃に長期保存する-この条件によって休眠が完全に誘導できる)処理し、それぞれの個体の脳内ドーパミン濃度を測定した。その結果、前者の25℃保存個体では脳内ドーパミン濃度が僅かずつ低下するのに対して、後者の低温処理個体の脳内ドーパミン濃度は5℃に保存開始後8週目から徐々に脳内ドーパミン濃度が上昇し、10週目には前者のそれに比べて約4倍のレベルまで高まることが分かった。したがって、ベニツチカメムシの生殖休眠には脳内ドーパミン濃度上昇が何らかの形で関与していることが明らかになった。
 一方、ハシリショウジョウバエでは幼虫期に短日を経験することによって終齢幼虫期に休眠に入る。ショウジョウバエを長日と短日で飼育し、それぞれの個体の脳内ドーパミン濃度を測定したところ、両者に有意な差は見られなかった。したがって、本種の幼虫休眠への脳内ドーパミン濃度の関与を明らかに証明することはできなかった。
 以上の解析結果より、昆虫の休眠誘導には種特異的な誘導機構が存在し、必ずしも、共通のしくみによって誘導がなされる訳ではないと結論できる。