共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

ヒノキチオールの細胞凍結保護効果に関する研究
研究代表者/所属 九州大学農学研究院
研究代表者/職名 助手
研究代表者/氏名 藤田弘毅

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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竹澤大輔 北大低温研

研究目的  ヒノキチオールは芳香族7員環という特殊な構造を持つモノテルペンである。これを生産できる生物はヒノキ科植物に限られ、強い抗菌性を持つ物質であることから、ファイトアレキシンとしてヒノキ科樹木の耐久性に寄与していると考えられている。また、細胞毒性や金属錯体形成能を持つことも知られている。
 最近の研究から、ヒノキチオールに氷核の形成を阻害する活性があることが示され、凍害防止剤としての新たな機能が注目されている。本研究ではヒノキチオールの植物細胞に対する氷核形成阻害剤としての有効性を解析するとともにその合成に関わる遺伝子を改変して、細胞の凍結傷害を緩和するための方法論を確立することを目的とする。
  
研究内容・成果  本研究者はテルペンシンターゼによりゲラニル二リン酸からテルピノレンを合成し、さらに修飾を受けてヒノキチオールが生産されると予想している。このテルペンシンターゼは多くの植物でテルペン代謝の律速酵素であることから、これを増強することが、本細胞系に於いて氷核形成阻害能を増強させる可能性が高い。そこで、ヒノキチオール生合成に関わると思われる遺伝子(酵素)を以下に述べる二つの手法で得ることを試みた。
 まず、既知のテルペンシンターゼのcDNA配列を参考にホモロジーを用いたdegenerate RT-PCRにて対象遺伝子の断片を得た。このRT-PCR産物のDNA配列は従来のテルペンシンターゼに十分なホモロジーを持っていたので、これをもとにcDNAライブラリーからのテルピノレンシンターゼのスクリーニングを行った。このプローブによって、いくつかのクローンが得られた。しかしながら、すべてのクローンは5‘末端の配列を欠いていたので、5’-RACE法を用い、欠損部分を補うことで全長配列を得た。この全長配列はすべて既知針葉樹テルペンシンターゼと十分に相同性を持つことが示された。大腸菌によるこの酵素の生産のためにはシグナルペプチドの切除が必要なため、適宜5’側配列を削った状態でこれらを遺伝子導入し、異種発現させ、誘導タンパクを得た。しかしながら、現在のところこのタンパクに酵素活性を得るには至っていない。
 一方で、このテルピノレンシンターゼの酵素活性は、通常の培養条件下の細胞ではほとんど見られず、エリシターの刺激によって初めて活性が現れることがわかった。そこで、エリシターによって誘導されるmRNAがヒノキチオール生産関連遺伝子であろうと予想し、マクロアレイ法による発現遺伝子の検索を行った。エリシテーションを行った細胞のcDNAライブラリーを作成し、これに対してエリシテーション前後の細胞のmRNAをプローブとして発現に増減の見られるmRNAを検索した。その結果、エリシテーションにより増加する48のクローンが得られた。また、いくつかの活性が減少するクローンもあった。これらのクローンのDNA部分配列の決定作業を行ったところ、種々の酵素が予想されたが、テルペンシンターゼに相同性を持つ酵素は現在のところ得られていない。さらに検索クローン数を増やすことによって、ヒノキチオール生産酵素の候補となるクローンが得られると期待される。