共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
越冬性植物の寒冷環境適応機構に関する研究 |
研究代表者/所属 | 北大院農学研究科 |
研究代表者/職名 | 助教授 |
研究代表者/氏名 | 荒川圭太 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
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所 属
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職 名
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1 |
村井麻理 | 独立行政法人東北農業 | 主任研究官 |
2 |
佐野雄三 | 北大院農学研究科 | 助手 |
3 |
上村松生 | 岩手大農学部寒冷バイ | 教授 |
4 |
藤川清三 | 北大院農学研究科 | 教授 |
5 |
内海泰弘 | 九州大院農学研究院 | 助手 |
6 |
竹澤大輔 | 埼玉大理学部 | 助教授 |
7 |
片桐 千仞 | 北大低温研 | 助手 |
研究目的 | 本研究では、植物の耐寒性に関連する因子を同定し、その生理機能の解析を通じて植物の寒冷環境適応機構を解明することを主な目的としている。本年度は、樹木の木部柔細胞における過冷却能力に関連する蛋白質因子の探索について調べることにした。 |
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研究内容・成果 | ブナ(Fagus cranata)の木部柔細胞は氷点下温度に対して深過冷却にて適応することが知られている。このことは、ブナ木部組織を示差熱分析にかけたとき、導管や細胞間隙の水が凍結する際に潜熱の放出によって検出される氷点付近のhigh temperature exotherm (HTE) と呼ばれるピークに加え、より低温側でもうひとつのピークが検出されることによって示される。このピークはlow temperature exotherm (LTE) と呼ばれ、細胞内部の過冷却していた水が凍結することによって形成されるものである。このLTEの検出温度を木部柔細胞の過冷却限界温度とみなし、過冷却能力の目安に用いることにした。 ブナ木部柔細胞の過冷却の限界温度は夏季に約-30℃であったが、11月上旬から低下し、12月には約-40℃に達した。また、厳冬期のブナ木部組織を用い、オーブンにて50℃の乾熱処理を10分間おこなっても、LTEのピーク温度は-40℃を維持しているため、過冷却能にほとんど影響を与えていないものと考えられた。しかし、60℃以上の乾熱処理ではLTEのピークが崩れて広がり、高温側へ移動するため、木部組織の過冷却能が低下したと考えられる。したがって、ブナ木部組織の過冷却能は、50℃で10分間の乾熱処理には耐性であるが、60℃で10分間の乾熱処理には感受性である事が予想された。これらのことを参考にし、ブナ木部組織にて過冷却に関連する蛋白質因子を選抜することにした。すなわち、低温馴化過程で誘導される可溶性蛋白質画分のうち、木部組織を50℃で10分間乾熱処理しても存在し、60℃で10分間の乾熱処理で減少してしまうものを検出することにした。 厳冬期(2月)採取の試料を2次元電気泳動に供試したところ、357個の蛋白質スポットを特定した。各月に採取した試料を比較したところ、そのうちの112個のスポットが低温馴化過程で誘導されるものとして検出できた。続いて、この112個のスポットについて木部組織の乾熱処理に対する蛋白質の挙動を調べたところ、最終的に28個の蛋白質スポットが過冷却能の変化と関連する可能性を示すものとして選別された。これらのうちのいくつかについて蛋白質スポットを単離してN末端のアミノ酸配列の分析を試みたが、現在、わずかにひとつのみN末端のアミノ酸配列の一部が特定できた状況である。 今後も引き続きN末端または内部のアミノ酸配列の分析をおこない、過冷却能に関連する蛋白質の同定を試みていきたい。 |
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