共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

積雪及び大気変動がアルベドに与える影響に関する研究
研究代表者/所属 気象研究所
研究代表者/職名 主任研究官
研究代表者/氏名 青木輝夫

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

堀雅裕 宇宙航空研究開発機構 開発部員

2

馬渕和雄 気象研究所 主任研究官

3

兒玉裕二 北大低温研 助手

研究目的  雪氷圏の放射収支に重要な要素である雪面のアルベドは積雪粒径と不純物濃度の2つの積雪物理量と大気条件に依存して変化する。雪氷圏における精度の高い将来予測のためには、これら積雪物理量や大気とアルベドの関係を精密に測定し、陸面過程のモデル化や衛星リモートセンシングによる検証を行う必要がある。そこで低温科学研究所の露場に自動放射収支観測装置及び自動気象観測装置を設置し、週2回程度の積雪断面観測を行い、積雪・放射・気象データ解析から積雪及び大気変動が放射収支に及ぼす影響を明らかにする。また、これらのデータを用いて衛星リモートセンシングによる積雪物理量の検証を行うと共に、積雪陸面モデルの検証を行う。
  
研究内容・成果  地球温暖化の影響は雪氷圏で顕著に現れることが知られている。これは雪氷の融解によってアルベドが低下することが大きな原因である。一方、雪面のアルベドは積雪粒径と不純物濃度の2つの積雪物理量と大気の変動に依存して変化することが分かっている。雪氷圏における精度の高い将来予測のためには、これら積雪物理量や大気とアルベドの関係を精密に測定し、陸面過程のモデル化や衛星リモートセンシングによる検証を行う必要がある。そこで低温科学研究所の露場において、2003/2004年冬期間、放射収支、大気エアロゾル、断面観測を行い、積雪粒径及び積雪不純物濃度とアルベドの関係を調べた。その結果、積雪粒径と近赤外域アルベド、積雪不純物濃度と可視域アルベドの間に良い相関があることを確認した。これにより、衛星による積雪物理量のリモートセンシングアルゴリズムの基本的原理が検証できた。また、これらの関係を大気-積雪系の放射伝達モデルによる理論計算値で再現したところ、不純物として一般の土壌粒子(ダスト)よりも吸収の強い物質が積雪中に含まれていることが分かった。この物質としてダストとすすの混合物を仮定すると理論計算値と観測値がよく一致した。すすは主に人為起源であるため、この結果は札幌の積雪不純物が人為起源エアロゾルによって汚染されていることを示唆するものである。
 一方、2004年3月11-12日には高濃度の黄砂イベントが観測された。このとき、可視域のアルベドは0.7から0.5まで低下した。黄砂の積雪面への沈着は非降水時の乾性沈着と降雪を伴った湿性沈着の2つのプロセスからなり、積雪表面の不純物濃度は黄砂イベント前の30ppmwから700ppmwに急上昇した。このときの光学式パーティクルカウンタの測定結果から、積雪表面への黄砂粒子の乾性沈着量と湿性沈着量を粒径別に計算し、積雪サンプルからコールターカウンタ分析で求めた黄砂粒子の粒径分布を比較したところ、湿性沈着した黄砂の含まれる大気の層厚は2kmで、積雪表面への黄砂の沈着は湿性沈着が卓越していたことが分かった。湿性沈着した大気層厚2kmは当日の札幌レーダによる降水を伴う雲の厚さと同じであった。
 以上のことから、大気エアロゾルが積雪表面へ乾性及び湿性沈着する量を計算することにより、積雪不純物濃度を見積もることができる可能性があることが分かった。化学輸送モデルで大気エアロゾル輸送量を粒径別に計算すれば、積雪不純物濃度を予測でき、放射伝達モデルからアルベドを求めることが可能である。