共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

不凍糖タンパク質水溶液で成長する氷結晶の形態と界面ダイナミクスの解明
研究代表者/所属 学習院大学計算機センター
研究代表者/職名 助教授
研究代表者/氏名 横山悦郎

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

古川義純 北大低温研 助教授

2

片桐千仭 北大低温研 助手

研究目的 氷結晶の成長を抑制する機能をもつ不凍糖タンパク質(AFGP)水溶液中で氷結晶のとる形態は,過冷却度一定の成長条件下においても,AFGP濃度に依存して大きく変化する。この結晶パターンとAFGP濃度及び過冷却度の関係を示すダイヤグラムは,研究分担者である古川らよって示された。本研究では,理論と実験の共同研究としてAFGP分子の界面での動的挙動を解明することにより氷結晶の成長の分子レベルにおける新しい知見を得ることを目指す。更に,非平衡熱力学の観点から,生体の耐寒冷・耐凍結の機構の解明へ挑戦する。
  
研究内容・成果  分担者の古川らによって,不凍糖タンパク質(AFGP)だけでなく不凍タンパク質(AFP)水溶液中での氷結晶成長実験その場観察が行われ,その結晶形態とAFGPまたはAFP濃度及び過冷却度の関係を示すダイヤグラムが作成された。この実験事実を一般的に説明するために、新しい成長機構の理論モデルを提案した。そこでは、氷の底面に関してのラフニング転移と氷のプリズム面に対するスムーシング転移が発生するメカニズムを議論した。
 一般に分子的尺度で平らな成長する結晶表面への不純物の吸着は、結晶表面で沿って前進する一分子層の段差であるステップの動きをピン止めし、ステップに曲率が生じると考えられる。その結果、ギッブス・トムソン効果と呼ばれる曲率に依存した平衡濃度または平衡温度の変化が起こり、より大きな成長の駆動力が必要になる。このように不純物の吸着によって成長速度を小さくする働きは、このステップのピン止めモデルによって説明されてきた。しかしながら、そこでは不純物の吸着過程を単純化しており、ステップ前面に不純物は「存在する」または「存在しない」という2つの状態しか許されない。ところが、水分子よりも2桁から3桁以上も質量が大きく、しかもAFGPのような両親媒性分子が、氷結晶表面で移動するステップに吸着する場合には「存在する」状態は、もっと複雑であると考えられる。特に、氷結晶表面に吸着したAFGP分子の働きが、氷結晶の成長に関して、面方位、過冷却度、濃度等の影響を矛盾無く説明するのは、ステップのピン止めモデルにおけるステップ前面に「存在する」または「存在しない」という仮定では不可能である。
 本年度の研究では、AFGP分子の吸着状態に関して1)疎水基をAFGP分子の中側に親水基側が外側にというミセル状態で単純に吸着している、2)氷表面と親水基側が結合し、疎水基側が周りの水と相互作用して吸着している、という吸着に関して2状態が存在するモデルを提案し、氷結晶の成長におけるAFGP分子の効果を考察した。そこでは、親水基側が氷表面に吸着し疎水基で氷表面が覆われると、周囲の水の構造は、氷のような秩序構造に変化すると考えた(疎水的相互作用)。その結果、過冷却水よりも安定な構造の水膜に覆われた氷表面の成長様式は、純水の場合と全く異なったものになる。この成長様式の変化をAFGP分子の吸着状態の構造変化の活性化エネルギーと過冷却水からこの水膜への活性化エネルギー障壁で記述できる氷の成長モデルを提案し、現在その定量的取り扱いを進めている。