共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

大気・海氷間抵抗係数の実地計測とそれに基づく海氷変動予測計算の精度向上
研究代表者/所属 東京大学工学系研究科環境海洋工学専攻
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 山口一

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

宮永大 東京大学工学系研究科 技官

2

豊田威信 北大低温研

研究目的  海氷は、気象・海象や海洋構造,海洋生態系に大きな影響を与えるばかりでなく、将来の水産資源確保や沿岸住民の生活にも重要な要素である。海氷は様々な力を受けて変動するが、風による力が最も大きく、氷野全体の変動を支配する。風による力、つまり大気・海氷間の抵抗係数は氷況によって大きく変化し、実地計測により求めるのだが、オホーツク海における計測データは殆どないのが現状である。本研究は、毎冬行われている海上保安庁の砕氷巡視船「そうや」を用いたオホーツク海南部での洋上観測の一つとして、渦相関法による風抵抗係数の計測を行い、結果を総合的に検討して、オホーツク海の海氷変動予測の精度向上を図るものである。
図1 図2 図3
研究内容・成果  超音波風速計を「そうや」のブリッジ屋外右舷側から1.5m程張り出して取付け、「そうや」停泊時に、風の3方向風速成分の時間変動を測定した。計測点の海面からの高さは、およそ10.5mである。計測した風速変動からReynolds応力を算出し、これを大気・海氷間摩擦応力と考え、抵抗係数を計算した。
 「そうや」を使った実地計測は2002年2月、2003年2月(図1)にも行っており、今回が3回目の計測であるが、氷況によって抵抗係数が1桁程度も変動しており(図2)、海氷変動予報計算において氷況に応じた抵抗係数値を設定することの重要性が強く認識された。しかしながら、これまでの海氷変動計算は、一つの海域では抵抗係数を時空間とも一定として計算しているのが現状である。
 2004年2月の計測では、船体傾斜を計測する傾斜計が故障したなど、軽微なトラブルがあったため、まだ計測結果の整理が完全には終了していない。そこで、2002年と2003年の計測結果を基に、予報計算の改良を試みた。まず、風と氷の間の抵抗を、氷盤の縁における空気の剥離による抵抗と、氷盤表面の摩擦による抵抗の2つの成分で表した。氷盤表面の摩擦による抵抗は、本来氷盤表面の粗さ(凹凸)の関数であるはずだが、予報計算では氷盤表面の凹凸は表現されていないので、氷盤の厚さで代用した。実際の氷海観測でも、厚い氷ほど表面の凹凸が大きい傾向が見られた。そこで、氷盤表面摩擦抵抗を氷厚の関数として表現するモデル式を作成し、その中の係数を、観測結果を参考にしつつ、予報計算が観測の氷況分布となるべく一致するように調整した。いくつかのモデル式を試したが、本研究の段階で最終的に得られた結果を図3に示す。上の2つの図は、4日後予報の計算結果の、改良前(右)と改良後(左)の比較で、氷密接度の分布である。赤系統の方が、氷密接度が高い。同日の海上保安庁提供の観測図が左下であるが、改良後の計算結果の方が観測結果に近くなっている。予報計算と観測結果の差を定量的に評価するために、氷密接度の観測と計算の差の2乗和平均を算出した。その変化が同図右下の図である。予報期間が長くなるにつれて誤差が増えて行くのは当然であるが、特に初日の誤差が大きい。これは、氷の初期速度の誤差や、観測の氷密接度が連続的な表現ではなく段階的な表現になっていることに起因している。しかし、この場合には相対的に30%の予測精度向上が見られた。他の期間についても同様の比較を行い、定量的にはばらつきがあるものの、どの期間でも今回の大気・海氷間抵抗係数表現により、予報計算の精度が向上することを確かめた。今回のモデル式と予報精度向上はまだ試計算の段階であり、実用レベルの予測精度を実現するためには、今後も抵抗係数の実地観測を継続し、様々な氷況におけるデータを収集するとともに、モデル式の更なる検討が必要である。
図1 図2 図3