共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

雪崩地形が創出する局所植物多様性の解析
研究代表者/所属 信州大学理学部
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 佐藤利幸

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

中西由佳 信州大学大学院 博士前期2年

2

原 登志彦 北大低温研

研究目的 北海道北部の多雪地域には雪崩地形がありその場所には樹木は生育しない。とりわけ幌加内町母子里の南北50km範囲には、雪崩地形とそれをとりまくようにアカエゾマツが生育している。これまで樹木が優占しない草原のほうが、範囲を限ると(1〜100m2)林床より局所植物多様性(種密度)が高いことが示されてきた。そこで今回は雪崩地形と近接した森林床における局所植物多様性を比較することを目的とした。すなわち雪崩のような環境撹乱要因が局所の植物多様性を維持している事実を確認するためである。とりわけ草本植物(シダ植物)に着目して比較調査を行う。
  
研究内容・成果  北海道北部のシダ植物の分布調査は1977年から30年にわたって行われている。これまで約500地点の調査が行われ、2003年度も36地点が追加された。500m以上の山地が連なる地域ではシダ種数も多く、1ヘクタールあたり15種が確認されるが、低地草原では5種程度である。すなわち10000m2の広さではシダ植物は林床や林縁で多種が生育する。一方シダ植物以外の草本植物(雑草:在来と帰化)では草原のほうが種数が多い。10000m2での資料はまだないが、100m2スケールでは約50の植物種が草原で確認され、林床では30種程度である。低地草原では湿原をのぞくと帰化植物の侵入が多い。
(1)雪崩地形のなだらかな斜面には大型草本・バラ科・イネ科草本が混在する。種数は100m2あたり約40種である。(2)急すぎる斜面(土壌移動や頻繁な雪崩地)では植物生育はできない。30-45度程度の斜面の裸地周辺に高い植物種密度が認められる。(3)雪崩地形の周辺は低地湿原と並んで、草本層(草本植物と幼樹木)の高い多様性が在来植物によって構成されており、帰化植物の比率が低い。すなわち雪崩地形周辺の明るい場所は、在来種の多様性を維持するホットスポットと呼べそうである。(4)しかし定着に時間のかかるシダ植物には雪崩による撹乱は厳しいようであり、イヌガンソク・エゾメシダ・ミヤマワラビなど種はごく限られる。
 スケールをかえて植物多様性(種密度)の調査をする必要がある。ほどよい自然撹乱の要因として雪崩を捉えなおすことは、植物遺存分布を考えるうえでも有効であろう。
 以下に母子里周辺の雪崩地形での主な植物を列挙する。ヒメヤシャブシ・ミヤマハンノキ・イワノガリヤス・イヌガンソク・キジムシロ・オニシモツケ・チシマアザミ・マイヅルソウ・オクエゾサイシン・オオブキ・ヤマブキショウマ・エゾメシダ・アカエゾマツ・チシマザサ・ウド・オオヨモギなどである。