共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

永久凍土中のメタンガスの起源に関する年代学的研究
研究代表者/所属 名大年代測定センター
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 中村俊夫

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

森泉 純 名大工学研究科 助手

2

福田 正己 北大低温研

研究目的 シベリアやアラスカの永久凍土地域では、最近の地球温暖化の傾向を受けて凍土の融解に伴って凍土中からメタンガスが大量に放出されており、これが更に将来の地球温暖化を促進する恐れが指摘されている。凍土起源のメタンがどの程度まで温暖化に寄与するかを見極めるためには、永久凍土中のメタンガスの存在量と融解による放出量を正確に見積もる必要がある。その第一ステップとして、永久凍土中のメタンガスが作られたプロセス、起源を炭素安定同位体比や放射性炭素による年代測定などで明らかにすることを、本研究の目的とする。
  
研究内容・成果 本年度も,北海道大学大学院地球環境学研究科院生の片村文崇氏が中心となって東シベリアのアラスの現地調査を実施し,アラス内の堆積物や周囲の湿地の土壌を採取した.しかし,これらの試料を日本へ持ち帰ることが出来なかったため,試料の分析は停止している.
 また,福田正己教授は,ロシアとの共同研究として,シベリアのヤクーツクにて永久凍土から氷体を採取し日本へ持ち帰った.しかし,連絡の手違いから,氷体試料を名古屋へ輸送する日程が大幅に遅れたため,現在,氷体のメタン濃度や炭素同位体組成比,さらにメタンの14C年代に関する分析を実施しているところである.
 このような手違いによる研究の遅れを考慮し,名古屋大学年代測定グループでは,シベリアマンモスの臼歯を用いて,臼歯が凍土中にあったときの平均温度の推定を研究した.この臼歯は,東シベリアのチクシから東北東に約25km離れたブイコフスキー半島で採取されたもので,福田正己教授から提供された.この臼歯の14C年代は,名古屋大学で34,250±820BPと既に得られている.そこで,臼歯が保存されていた永久凍土中の平均的温度が推定できる.
アミノ酸には,光学異性体としてD型とL型がある.生きた生物体内では,アミノ酸はほとんどがL型アミノ酸として存在する.しかし生物の死後,長い時間をかけてゆっくりとラセミ化が進み,L型からD型へと変化する.ラセミ化速度は,周囲の温度に依存する.この原理に基づいて,マンモスの臼歯資料に現存するアミノ酸のD/L比を測定し,臼歯の14C年代値を用いて,周囲の平均温度を求めることができる.温度は,-4℃〜-8℃と得られている.これは,永久凍土の温度(-20℃〜35℃)に比べて高い値である.この分析では,まだ検討するべき点があるが,過去の平均的な凍土温度が,試料から直接推定できるため,年代測定と合わせて過去の永久凍土の性質を調べる研究に役立てることが出きるものと期待される.このように,永久凍土をさまざまな観点から研究することも大切である.凍土温度の推定については,名古屋大学環境学研究科の南助教授を中心に進められた.詳細は,下記の参考文献を参照していただきたい.

「参考文献」
南 雅代・竹山雅美・中村俊夫(2004)東シベリアマンモス臼歯化石のアミノ酸のラセミ化と14C年代.名古屋大学加速器質量分析計業績報告書, XV, 52-65.