共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

低温におけるn-アルカンの応力誘起構造変化
研究代表者/所属 大阪大学大学院理学研究科
研究代表者/職名 助教授
研究代表者/氏名 金子文俊

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

川口辰也 大阪大学大学院理学研究科 助手

2

田中智也 大阪大学大学院理学研究科 M2

3

古川義純 北大低温研

研究目的 n-アルカンは単純な分子構造にも関わらず、多彩な結晶構造と固相相転移現象を示すことが知られている。最近、私たちは炭素数22のn-アルカンであるドコサンにおいて、新しい固相構造変化を見いだした。単結晶に引張応力を加えると瞬時にその一部に構造変化が生じる。伸長するにつれて構造変化は進行するが、逆向きの応力に印可すると元の単結晶状態に回復する。これまでの研究の結果、この現象は応力誘起の双晶形成と捉えることができること、が明らかになった。
 本研究では、この新しい応力誘起双晶化現象について、より詳しく構造変化の機構を調べるとともに、より融点が低いn-アルカンや低温環境下でも生じる現象であるかを調べた。
  
研究内容・成果 [応力誘起双晶化の機構]
 応力誘起双晶化により構造変化した領域は、引張応力を取り除いてもバンドは消失しない。この性質を利用して、テトラコサンの単結晶において双晶化した領域と双晶化以前の領域間で、どのような結晶軸の配向の変化が生じるかについて偏光顕微赤外法により調べた。
 テトラコサンは分子鎖側面方向で隣り合う分子のポリメチレン鎖骨格が平行に並ぶT//型の副格子構造を形成し、結晶全体としても三斜晶系に属している。このT//副格子に特有なsingletとして観測されるCH2横揺れ、並びにCH2挟み振動の赤外バンドの偏光特性を解析した結果、接合面はもとの単結晶の (2,-1,0)面に対応しており、この面が鏡面になる関係で新旧の二つの領域が結びついていることが明らかになった。この接合面が結晶の伸長に伴って移動することにより結晶の双晶化が進行していき結晶軸の向きが変化した領域が拡大するが、この接合面上では分子は分子鎖軸回りに回転的な変位による配向の変化を主体とし分子の並進的な動きを殆ど伴わない構造変化であることが分かった。
[同型の結晶変態における構造変化]
 このテトラコサンと同型の結晶構造は炭素数28以下のn-アルカンで見られる。このような同型の結晶を形成するn-アルカンにおいても同様な応力誘起双晶化が観察される可能性が高い。そこで、今回炭素数20のエイコサン(n-C20H42)とヘキサコサン(n-C26H54)の単結晶を育成し、この結晶においても応力を印可したところ、双晶化がみられた。また、これらの結晶においてもその可逆性が確認された。 
[温度効果]
分子の運動性が低下する低温域では双晶化が困難になり、応力印可の際には破壊される可能性が高い。そこで冷却下での双晶化挙動を観察したが、室温から-23℃までの温度範囲で炭素数20から26までのn-アルカンで双晶化による塑性変形が生じることを確認した。塑性変形が起こらなくなる限界はどこにあるのか、それに関しての炭化水素鎖の鎖長依存性があるかどうかについて調べる必要がある。