共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

南極季節海氷域におけるアイスバンド構造と大気場の関係
研究代表者/所属 鳥羽商船高等専門学校
研究代表者/職名 助教授
研究代表者/氏名 石田邦光

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

大島慶一郎 北大低温研

2

深町 康 北大低温研

研究目的  南極海の季節海氷域は時空間的に常に変動している。その中でも氷縁域では氷盤のスケール変動にとどまらず、開水面を伴う渦やプリュームそしてアイス・バンドなどの現象が複雑に絡み合った海氷分布が見られ、それらは短いタイムスケールで変動している。そして、この氷縁域において形成されるアイスバンドと呼ばれる構造は、ときには数100〜1000kmにもわたって海氷野内部に存在していることが分かってきた。そこで本研究は、南極昭和基地沖に形成されるアイスバンドの変動と大気場(風など)の変動との関係を調べ、アイスバンド構造の変動はなにによってコントロールされているかを解明しようとするものである。
  
研究内容・成果  アイスバンドのバンド幅、バンド間隔、バンドの長軸方向の計測には、昭和基地で受信されたMOS-1/1b MESSR(分解能50m)のクイック・ルック(Q/L)画像を使用した。また、アイスバンドの構造変化が海氷密接度にどのように反映しているかを見るために、海氷密接度も算出した。海氷密接度の算出には氷縁域で精度の高いBootstrapアルゴリズムを使った(Comiso and Steffen, 2001)。気象データとしては、ECMWFの再解析データ(ERA-15)を用いた。なお、解析期間は1989年〜1993年の8月〜12月である。計測したアイスバンドが、アイスバンドの発達過程中のどの時点のものであるかはMOS-1/1bの回帰日数が17日と長いことから、知ることはできない。しかしながら、アイスバンドが確認できた日(観測日)の計測値は、その日を起点としたそれまでの気象条件が反映していると考えられるので、アイスバンドが確認できた海域の10日前までの気象データを抽出し、解析に使用した。
 アイスバンドの形成メカニズムとして、その可能性が示唆されるのはこれまでの解析から、風によって生じる波の応力によって氷盤が集まりアイスバンドを形成するという「Wave radiation theory」(Wadhams, 1983)である(Ishida et al., 1999; 末武, 2000)。このことから、アイスバンドの形成には海上風が大きく関与している。そこで、海上風とバンド幅、バンド間隔およびバンドの長軸方向との相関を調べた。観測日の海上風とバンドの各計測値との相関はあまりなかった。そこで、観測日の何日前までの平均風速との相関が高いかを調べた。その結果、3日前まで(観測日を含めた計4日間)の平均風速との相関が、バンド幅、バンド間隔ともに高かった。そこで、他の気象データについても、この4日間の平均値を使用することにした。平均風速とバンド幅およびバンド間隔の関係では、バンド幅よりバンド間隔の方が高い相関を示した。バンドの長軸方向と風向との偏差については、観測日の偏差にはばらつきが大きく、風向の右側20〜80度に多くが分布している。しかしながら、この偏差についても4日間平均で見てみると、分散は小さく、80〜90度が一番多く、60〜100度に集中していることが分かった。この結果は、Wave radiation theoryを立証する重要な要素の一つである。また、4日間の平均値で検討してみるとバンド幅、バンド間隔ともに、風応力に相当する風速の二乗と高い相関が見られ、これらのことからも、アイスバンドのバンド幅、バンド間隔は数日間の平均的な大気場によってコントロールされている可能性が示唆された。また、アイスバンドの形成には沖出しの風、つまり南極では基本的に南北成分の風が効いてくるはずであると考えられていたが、今回の解析ではバンドの幅、間隔ともに、南北方向成分よりも東西方向成分との方が比較的高い相関を得た。