共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

パタゴニア氷原のカービング氷河の変動ーII
研究代表者/所属 筑波大学地球科学系
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 安仁屋政武

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

なし なし なし

2

成瀬廉二 北大低温研

研究目的 パタゴニア氷原に分布するカービング氷河の最近の変動を明らかにし、その要因を考察してカービング・メカニズムを解明することを目的とする。
 パタゴニア氷原には南北併せて80近い溢流氷河があるが、そのうち約80%はカービング氷河である。このうち北パタゴニア氷原 では主な21の氷河について、衛星データ、空撮などにより1945年以降の詳しい変動調査が行われている。この結果、現在では21の氷河のうち14の氷河がカービングを行なっていることが判明している。また、2〜3の氷河では末端崩壊と呼ばれる、1シーズンで1〜2kmも後退する現象が見られている。予察的な研究では末端崩壊の前には前進した可能性があることが判明している。
 
  
研究内容・成果 パタゴニア北氷原の北西側に位置し、ここ数年、激しいカービングを繰り返し、見かけの前進をともなって後退している、レイチェル氷河とグアラス氷河の状態について、2003年12月撮影の斜め写真を使ってアップデイトし、カービングと末端変動について若干の考察をした。
 レイチェル氷河は面積92 km2, 長さ28 kmである。1999年11月ー2001年11月の間に、長さ約1km、幅数100mの大きな氷山を分離して後退した。さらに、2003年1月までに末端は1km近く後退した。しかし、この時は大きな氷山を分離していない。2003年12月の写真との比較では、末端位置はやや後退しているが特にに大きな変化は認められない。顕著な変化は右岸に張り付いていたDebris-covered ice (or ice-cored moraine)が融けて消滅していることである。また、2003年12月の写真には末端から2 kmぐらいのところに長さ数100mの巨大な氷山が認められるが、2003年1月の写真にはない。これは、この間に見かけの前進をして大きな氷山が分離されたことを示している。この現象は以前に呈示したレイチェル氷河では「後退する前に前進する」というモデルに合致している。
 グアラス氷河は面積167 km2, 長さ28 kmで、最近は表面の状態から湖中での末端位置の定義(確定)が困難であるが、2001年以降、見かけ上では顕著な変化はない。湖中の氷体内に湖水が進入しているのが認められることからから、末端付近は浮いているか、浮く寸前の状態にあると考えられる。2001年11月、2003年1月、2003年12月の写真を比べると、湖中の氷体の見かけの輪郭には大きな変化は認められないが、2003年12月の写真では湖水の進入が激しく、氷体はよりルースになっていると解釈できる。また、氷河表面の傾斜が急激に変化する所に大きなopen waterが認められ、ここがactive iceの末端と解釈できる。このopen waterの小さなものが2001年11月の写真にも認められたが、当時はこのopen waterの存在の解釈が明確ではなかった。しかし、今回の継続モニターにより、このopen waterはactive iceとdetaching ice (or floating? ice)の境を示していることが明らかになった。これは分解能20-30mの衛星データでは識別困難なので、コンピューターアルゴリズムで末端位置の自動認識を行なう祭には注意が必要である。