共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

画像処理による不凍タンパク水溶液から成長する氷結晶の形態と熱・濃度拡散場の解析
研究代表者/所属 学習院大学計算機センター
研究代表者/職名 助教授
研究代表者/氏名 横山悦郎

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

入澤寿美 学習院大学計算機センター 教授

2

古川義純 北大低温研 助教授

3

大井 正行 北大低温研 研究支援推進員

研究目的 従来、干渉計を使った結晶周囲の環境相の観察では、干渉縞の曲がりを読みとることで温度・濃度の変化を算出していた.しかし、目視による測定では大変な労力が必要であり、空間分解能の高い解析や、場全体の時間変化を調べる等の大量のデータを解析することが困難であった.本研究では、位相シフト干渉計に準じた解析をソフト的に行うことによって、精度と速度を飛躍的に進歩させる新たな手法を本年度新たに開発した。その手法を不凍糖タンパク水溶液から成長する氷結晶界面近傍の位相(濃度)に適応し、成長速度が自発振動する現象を解明することを目的とした。
  
研究内容・成果 1.はじめに
 不凍糖タンパク質(AFGP)は、氷と水の界面に吸着することで氷結晶の成長を抑制すると理解されている。しかし、不凍糖たんぱく質存在下での氷結晶成長カイネティクスの理解は未だ十分ではない。その解明の糸口として我々は、過冷却融液中で成長している氷結晶界面近傍で発生する潜熱の分布、また氷結晶に取り込まれないAFGP分子の濃度場の両者を高精度に可視化することを試みた。その場観察には、Mach-Zehnder干渉計を用いた。得られる干渉縞画像の位相は、光の屈折率の温度・濃度依存性を通じた試料セル内の屈折率分布を反映している。本研究では、新たに開発した、位相シフト解析法を新たに提案する。
2.方法
 干渉縞画像を1次元フーリエ変換する。フーリエ空間において主要波数における実部と虚部の合成ベクトルの大きさを変えずに、位相を90度と180度だけ変化させた後、逆フーリエ変換する。その操作を画像に全体について行い、位相が異なった干渉縞画像を2枚作る。原画像と作成した2枚の干渉縞画像をについてarctanを取る位相シフトアルゴリズムを適用する。更に位相の接続を行い、濃度・温度場に対応した位相場を求める。
3.結果
 シミュレーション画像において、従来の手法よりも位相場を高精度に復元できたことを確認した。次に純水を使ったAFGP溶液中で氷結晶を一方向成長させ、氷結晶界面のAFGPの濃度分布を可視化した。この解析により、結晶の成長が止まった際、AFGP濃度に対応する位相変化が大きくなっているのが確認できた。
4.考察
 不凍糖タンパク質水溶液から成長する氷結晶の場合,サーマル・ヒステリシスという凝固点降下の特徴がある。即ち融点は純水 と氷の平衡温度とほとんど変わらないが、凝固点はAFGPの濃度・分子量に依存し数度下がる。黒田(1990)は、この現象を氷/水界面に吸着した AFGP分子の速度論的効果として考察し、凝固点降下は、長さをもったAFGP分子の界面吸着によるギブス・トムソン効果で起こり、一方融解の際 は、AFGP分子が界面から水溶液へ離脱してしまうと解釈した。 ところで一般に、結晶表面における非平衡度(表面過冷却度・表面過飽和度)に対して成長速度がヒステリシスが存在すれば、結晶の成長速度が自発 振動することを我々は理論的に示している。今更にカイネティク・ループと呼ばれるこのヒステリシスを、分子レベルでの機構を明らかにすることが必要である。 本研究では、サーマル・ヒステリシスと成長速度のヒステリシスを引き起こすカイネティク・ループの関係を考察し、プリズム面に親水基側から吸着しているAFGP分子の疎水基の周りに疎水的相互作用による水分子の秩序構造が新たにできることによって、以上のヒステリシス現象を説明できる仮説を提案した。