共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

カムチャッカ半島における完新世古環境変動に関する地生態学的研究 
研究代表者/所属 上越教育大学
研究代表者/職名 助手
研究代表者/氏名 山縣耕太郎

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

西城 潔 宮城教育大学 助教授

2

大月義徳 東北大学 助手

3

澤口晋一 新潟国際情報大学 助教授

4

長谷川裕彦 明治大学 非常勤講師

5

曽根敏雄 北大低温研

研究目的  高緯度に位置するカムチャッカ半島においては,完新世の気候変化にともない,氷河・周氷河地域の急激な縮小,土壌・地形形成作用の変化,植生分布の変化が生じ,最近数千年間においては,人為的な作用も,自然環境に大きな影響を与えたことが推定されている.そこで本研究では、カムチャッカ半島における現在の自然環境における地形、植生、土壌、気候、さらには人為など、複数の環境構成要素による相互作用のメカニズムを明らかにするとともに、現在の自然環境が形成されたプロセスを明らかにするために、地形学、古生物学、土壌学など複数の手法を用いて、多角的に完新世の環境変遷史を明らかにすることを目的とする.
  
研究内容・成果  今年度は,カムチャッカ半島西部スレディニー山脈に位置するエッソ地域において永久凍土の分布を明らかにするための調査を行った.永久凍土の状況を評価するための気温,地温についても継続して観測を行っている.さらに,これまでの永久凍土の分布に関するデーターを基に,永久凍土,地形,植生の相関関係について検討を行った.さらにエッソ周辺で最近発生した森林火災が永久凍土,植生に与えた影響についても検討した.
 凍土の分布を詳細に検討した結果,エッソ周辺の標高1000m以下の地域は,不連続な永久凍土分布域となっていることが明らかになった.また,凍土の分布と斜面方位などの地形要素や,植生,表層物質の条件との間に密接な関係が認められた.エッソ周辺の主要な植生は,カラマツ林,ダケカンバ林,ミヤマハンノキ林,ハイマツ林であるが,これらが単純な垂直分帯ではなく,地形に対応したやや複雑な分布を呈している.これらの植生分布と立地環境条件を比較した結果,この地域の植生分布を規定している主要な要素は,土壌の乾湿条件であると推定された.特に融解期に活動層が過湿になり,乾燥と同様の条件が生じる永久凍土の存在が重要であると考えられる.
 また,永久凍土が分布するウクシチョン川右岸北向き斜面のカラマツ林と,永久凍土が分布しない左岸南側斜面ダケカンバ林において,それぞれ1995年と2001年に森林火災が発生している.両者の延焼状況や,その後の植生の回復過程は大きく異なる.カラマツ林では,ほとんどの高木が焼失,枯死し,高い炎が上がって燃焼したものと考えられる.一方のダケカンバ林における森林火災は,表層の有機物層がくすぶって燃えていくこと(Smoldering Combution)によって拡大したことが確認された.このため,火災後ダケカンバ林において枯死しているのは老齢樹が多い.また,ダケカンバ林の林床は,火災の翌年にはすでに草本によって覆われているが,カラマツ林では,火災後7年がたった現在でも裸地が多く残り,火災後の回復はダケカンバ林に比べて著しく遅い.このように森林火災は,カラマツ林においては森林を破壊するのに対して,ダケカンバ林では更新に寄与している.また,カラマツ林では火災の影響によって林床の永久凍土が融解,消失し,degradationパルサの形成が認められた.
さらに土壌断面の観察から,約2000年前のスーダッチ火山灰より上位の土壌層中に3〜4枚の炭層が確認されることから,この地域では少なくとも数百年に一回の割合で火災が発生していることが推測された,最近はその頻度がさらに増大したいることが予想される.