共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

シロイヌナズナ低温馴化過程における細胞膜タンパク質の関与
研究代表者/所属 岩手大学農学部
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 上村松生

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

冨永陽子 岩手大・農(生研機構) 博士研究員

2

荒川圭太 北大低温研

研究目的 本研究は、細胞膜が植物における凍結傷害の初発部位であることに鑑み、低温馴化過程における細胞膜組成変動の耐凍性増大に関する分子機構を解明することを目指す研究である。具体的には、低温馴化過程における細胞膜(脂質やタンパク質)変動を詳細に解析し、その個々の変動がどのようなメカニズムで凍結傷害発生を回避しているかを明らかにする。本年度は、変動タンパク質の同定を終了し、個体や単離プロトプラストの凍結融解過程における同定タンパク質の機能評価(北大低温研にある低温ステージ付き共焦点レーザー顕微鏡を用いて行う)のための、形質転換体作成を行うことを目的とした。
  
研究内容・成果 低温馴化前後のシロイヌナズナ植物体より高度に精製された細胞膜画分を単離し、等電点電気泳動用可溶化緩衝液(6M Urea, 2M Thiourea, 4% CHAPSを含む)で処理した。その可溶化緩衝液に可溶性の部分と不可溶性の部分に分け、2次元及び1次元電気泳動で各々含まれるタンパク質を分離した。電気泳動パターンの比較から、可溶性画分で27個のスポット、不溶性画分で15本のバンドに変動が見られることを確認した。その後、変動する個々のタンパク質をペプチドマスフィンガープリンティング法とMALDI-TOF/MS法を組み合わせて同定した。その結果、動物や微生物細胞でストレス誘導タンパク質として知られているタンパク質と高い相同性を持つタンパク質、乾燥過程で出現するタンパク質、炭酸固定関連タンパク質、カルシウム信号伝達関連タンパク質、など合計38個のタンパク質が同定されるに至った。タンパク質同定には、低温研所有のアミノ酸シークエンサーによる解析結果も併用した。次いで、同定されたタンパク質の中から、乾燥過程で出現するタンパク質(Dehydrin ERD10及びERD14)、コムギ細胞膜にも低温馴化過程で同様の変動タンパク質があることが知られているリポタンパク質(outer membrane lipoprotein)などを選び、シロイヌナズナにそれらをコードする遺伝子を導入し恒常的に発現させた(CaMV 35Sプロモーター使用)形質転換体を作成した。同時に、低温誘導性プロモーター(rd29A)を利用した低温条件下でのみ発現するようにした形質転換体も作成した。現在、それらからホモ形質転換体を得るため選抜を続けており、今後は、凍結耐性、凍結傷害発生機構などについて、個体レベル、及び、細胞レベルで解析をすすめ、これらの細胞膜タンパク質をコードする遺伝子の凍結耐性獲得過程における機能評価を進めていく予定である。