共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

低温環境下における血液レオロジー
研究代表者/所属 群馬大学工学部生物化学工学科
研究代表者/職名 助教授
研究代表者/氏名 外山吉治

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

落合正則 北大低温研

研究目的 フィブリノーゲンは血液凝固や赤血球凝集の主要因子であり、血液のレオロジー的性質を左右する血漿タンパク質である。フィブリノーゲン水溶液は温度変化に極めて敏感に反応し、低温ではフィブロネクチンやヘパリンなどと複合体を形成し不溶化する。この複合体は“クリオゲル”あるいは“クリオフィブリノーゲン”と呼ばれ、血栓閉塞症、レイノー病、リュウマチなどの疾患に深く関与しており臨床医学上極めて重要な問題である。しかしながら、フィブリノーゲンの溶解挙動の温度依存性を物理化学的立場から定量的に調べた研究例は殆んどない。本研究はフィブリノーゲン水溶液の溶解挙動を熱力学的安定性と分子運動性の両面から検討した。
図1 共存曲線 図2 散乱光強度 図3 緩和時間分布関数
研究内容・成果 フィブリノーゲン水溶液の共存曲線とゲル化曲線

(実験)
ブタ血漿由来フィブリノーゲンをpH 7.4のリン酸緩衝液に溶解させた試料を直径8mmのガラスセルに封管し、5℃より6時間毎に0.25℃で降温させた。共存曲線は水溶液からの透過光が完全に消滅する白濁点の濃度依存性より求め、ゲル化点は転倒法を用いて決定した。
(結果)
フィブリノーゲン水溶液の共存曲線は1g/dl付近で極大値をとる高分子特有の左右非対称な形状を示した。一方、ゲル化温度には濃度依存性が殆んど認められず、いずれの濃度でも4.5℃付近でゾル―ゲル転移を示し、得られたゲル化曲線は臨界共溶点と交差する三重臨界現象を示した(図1)。この臨界濃度はFlory-Hugginsの理論より予測される値(1.2g/dl)とほぼ一致した。また、このゾル―ゲル転移は熱可逆的であり、0.2Mの尿素添加により阻害されることから、水素結合が支配的であることが分かった。

フィブリノーゲンゲル形成のダイナミクス

(実験)
フィブリノーゲンの自己集合およびゲル化過程を動的光散乱より調べた。動的光散乱の測定は光源にHe-Neレーザーを用い、散乱角30°にてホモダイン法で行った。0.6g/dlフィブリノーゲン水溶液を4.9℃にクエンチした直後から、散乱光強度および自己相関関数の経時変化を測定した。得られた自己相関関数より、CONTIN法を用いて緩和時間の分布関数を求めた。
(結果)
散乱光強度は経過時間(t)とともに最初緩やかに増大し、t>700 minで急激な増大を示した(図2)。一方、緩和時間の分布関数は経過時間(t)とともに次の様な変化を示した(図3)。t=7 min:フィブリノーゲンモノマー(もしくはオリゴマー)の第1ピークのみが観測された。t=32 min:フィブリノーゲンの自己集合に伴い、緩和時間の大きな第2ピークが現れた。t>130 min:第2ピークは集合体の成長とともにさらに緩和時間の大きな方へシフトし、これに伴い第1ピークは減少し、最終的に消滅した。以上の結果から、フィブリノーゲンは低温度下で自己集合し、次第に巨視的なクラスターを形成することが明らかとなった。今後はフィブリノーゲン水溶液の共存曲線およびゲル化曲線より得られた臨界共溶点よりも高い濃度で同様の測定を行う予定である。
図1 共存曲線 図2 散乱光強度 図3 緩和時間分布関数