共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

雪の構造変化過程と誘電的・力学的性質の温度特性
研究代表者/所属 北陸大薬
研究代表者/職名 講師
研究代表者/氏名 竹井巌

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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前野紀一 北大低温研 教授

研究目的 融点近傍での雪の変化過程を,誘電的および力学的手法を用いて明らかにすることが本研究の目的である。特に,雪の誘電的性質より予想される雪粒子の結合状態の変化が,力学的性質である振動伝播速度の温度特性とあわせてどのように解釈できるか検討した。
雪試料の力学的振動伝播速度(縦波,横波)の温度依存性。多結晶氷(縦波)の結果も示す。  
研究内容・成果  融点近傍での雪の変化過程において誘電的性質および力学的性質は,時間や温度履歴に強く依存することが知られている。本研究では,低周波電気伝導度および力学的振動伝播速度についてその温度特性や時間,温度履歴依存性が,実験データとして得られている。
 雪試料の低周波電気伝導度の融点近傍におけるピーク現象(ピーク温度から融点にかけて伝導度が減少する)は,氷粒子間の結合状態の変化を示していると考えられた。このことは,雪試料の力学的振動伝播速度に-0.6(degC)以上の温度領域で急激な減少が観察されることからも支持される。この結合状態の変化が何であるかを検討した。
 昇温と降温過程での測定では,電気伝導度や伝播速度に二つの特徴的な現象(温度ヒステリシスと,融点近傍への接近の前後で値の変化)が認められる(参考図)。これは,雪試料内部での氷粒子結合(境界)に,軟化または融解等の状態変化が生じていることを強く示唆する。力学的振動伝播の横波成分の信号が,融点近傍で消衰する傾向も観察されるので,場所によっては氷粒子間すべりが生じている可能性もある。また,融点近傍接近の温度履歴の前後で測定値が増加する事実は,氷粒子結合の成長が融点近傍で促進されたことを意味する。
 雪の密度を変えた力学的測定では,伝播速度が密度の小さい試料ほど小さくなることが観測された。一般に均質弾性体物質の伝播速度は密度の平方根に反比例するので,予想とは反することになる。この結果は,雪密度の変化の寄与よりは,氷粒子結合の状態(結合数,強度)が伝播速度により大きく寄与しているとして説明できる。すなわち,雪の物理的性質は,均質媒質としての性質よりは,個々の氷粒子結合状態に大きく依存していることが改めて示された。

I. Takei and N. Maeno. 2003.
雪試料の力学的振動伝播速度(縦波,横波)の温度依存性。多結晶氷(縦波)の結果も示す。