共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

積雪流域における物質循環過程
研究代表者/所属 信州大学理学部物質循環学科
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 鈴木啓助

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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石井吉之 北大低温研

研究目的 水循環過程において、雪は雨と異なった働きをする。つまり、地表面に降下した雨は、窪地などでの一時的な貯留を除くと、土壌中を浸透し地下水を形成し、河川水となって流出する。ところが、雪はある期間地表面に堆積し、融雪という過程を経てから流出する。水の流出過程のみならず物質循環という観点でも、雪は雨とは異なる様相を呈する。積雪流域における物質循環については解明すべき問題が数多く残されている。そこで、積雪流域における水および化学物質を中心として物質循環過程を明らかにすることを目的とする。
  
研究内容・成果  今年度は、天竜川支流小黒川の森林源流域において水文調査を実施した。観測項目は河川流量、河川水温、気温、降水量であり、河川水と降水を定期的に採取し、その化学分析を行った。河川流出高の増減に伴う河川水質の変動が認められ、HCO3-濃度とCa2+濃度の月平均値は流出高が大きくなると増加し、NO3-濃度の月平均値は流出高が大きくなると減少した。陰イオンでは冬季に比べて夏季にHCO3-が多く生成されるために、河川水中のイオン組成が季節の推移とともに大きく変化していた。河川流量は常に変化しており、低水時には蒸発散による流出高の日変動がみられた。その際には、河川の流出高は早朝に極大、昼に極小を持つ日変動を繰り返し、河川水中のイオン濃度は、流出高が増加したときに濃度が高くなる変化を示した。流出高の降雨による一時的な増加時には、NO3-濃度の増加にともなって、pHの低下が観測された。この時、河川水中の陰イオン組成ではNO3-とCl-の割合が大きく増加した。融雪による流出高の増加時には、NO3-濃度は初期には高くなったが、後半は低くなる変化を示した。また、流域内への化学物質の沈着量と流域からの流去量を算出し、対象流域における物質収支を求めた結果、陽イオンではすべてのイオンで流去量の方が沈着量を上回った。K+は植物からの起源が考えられ、Na+、Mg2+、Ca2+は、土壌や岩石を起源として流出していると考えられた。一方、陰イオンでは、NO3-は年間を通して沈着量の方が流去量よりも多く、Cl の物質収支はほぼ釣り合っていた。