共同研究報告書提出

共同研究報告書

研究区分	一般研究
研究課題	環境ストレスによる木本植物のカロチノイド組成変化に関する研究
研究代表者／所属	長岡工業高等専門学校
研究代表者／職名	助手
研究代表者／氏名	柴田勝

研究分担者／氏名／所属／職名
	氏　　名	所　　属	職　　名
1	田中亮一	北大低温研

研究目的	北方樹木であるモミ属、トウヒ属の針葉には、草本植物の葉緑体にはほとんど検出されないalpha‐カロチン(a-Car)が大量に含まれておりbeta‐カロチン(b-Car)と置き換わる形で存在している。また、これらのカロチン含量・組成は季節的な変化を示しており、木本植物に特異的な環境ストレス回避機構が示唆されているが、alpha‐カロチンの詳細な存在部位や他のカロチン、キサントフィル類との関係、光利用効率に与える影響などについて明確ではないことから、樹木の環境ストレス耐性機構と色素組成変化についての関係について明らかにすることを目的として研究を行った。

研究内容・成果	a-Carの存在するクロロフィルタンパク質複合体の特定とその複合体でのカロテノイド組成を調べるために、チラコイド膜内のタンパク質複合体をmild SDS-PAGEにより反応中心ⅠとLHC-Ⅰの結合したCPⅠa，反応中心Ⅰ（CPⅠ），反応中心Ⅱ（CPa），LHC-ⅡのオリゴマーのLHCP1，LHCP2，LHCP3およびフリーピグメント（FP）の6本のグリーンバンドに分離し、色素分析を行った。　その結果、a+b-Carに対するb-Car比率は0.54±0.02であり、葉内のb-Car比率はチラコイド膜の比率を反映していた。また、チラコイド膜内の色素タンパク質複合体でのb-Carの比率は0.54±0.03であり、全てのタンパク質複合体ではほぼ等しい値を示しており、a-CarンはRCに同程度の割合で広く分布していることが分かった。これらのことから、a-Carの含量に関係なく、a-Carを含む全ての植物においてタンパク質複合体にa-Carが存在していると考えられる。　次に、季節的なカロテノイド組成変化がどの様な環境要因により影響されるかを明らかにするために、モミおよびカキノキ葉を光強度が太陽光の10%，25%，50%，75%，90%，100%になる様に日陰処理を行い、光強度によるCar中のa-Car比率の変化を調べたその結果、a-Car含量は生育光強度が弱いほど葉内に蓄積されやすくなっていた。これは、日陰に生育する樹木の葉が急激な光強度の変化により光合成系に阻害を受けやすいことから、阻害緩和のためにa-Carが蓄積するためだと考えられる。　　次に、生育温度がa-Car含量に与える影響を調べるためにモミの生育温度を5日間ごとに3℃づつ4℃から40℃に変化させ、各温度の時の葉片に含まれるCar中のa-Car比率を測定した。生育温度の上昇と共にa-Car含量は増加したが、30℃以上では逆にa-Car含量は減少した。これらのことから、夏季のa-Car含量の増加は生育温度の上昇によるものであることが明らかとなった。しかし、a-Car含量は弱光で蓄積されやすいことから、a-Car含量の季節変化を光強度のみで考えた場合、夏季のa-Car含量は減少しなければならないが実際には夏季にa-Car含量は増加し、特に測定樹種の中にあるモミ属、トウヒ属などの北方系樹木がa-Carを蓄積しやすい傾向にあったことから、a-Carは、陰葉（陰樹）または冷涼な環境に適応した樹木が、急激な光環境の変化による光阻害を回避するために働いているのではないかと考えられる。