共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

多雪地域における林下と草原における局所植物多様性の比較
研究代表者/所属 信州大学理学部生物科学
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 佐藤利幸

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

永山葉子 信州大学大学院工学研究科 博士前期課程2年

2

中西由佳 信州大学大学院工学研究科 博士前期課程1年

3

原 登志彦 北大低温研

4

隅田明洋 北大低温研

研究目的 シラカバやダケカバ、ミズナラなどの広葉樹からなる北方林の林床にはササが優占する場合が少なくない。雪崩地や人為的なササ刈り取り(2001の同共同研究報告)により、草本植物を加えた局所植物多様性が確認できる。北方林でも針葉樹木が優占する林床では植物種数は少ない。広葉樹の優先する場所や樹木のない草原での植物多様性の比較研究は残された課題である。この共同研究では、手始めに資料収集のすすんでいるシダ植物の種数から、北海道北部の森林地帯における、森林および畑そば、優占木の有無による局所植物多様性の比較研究を行った。
  
研究内容・成果
北海道北部(幌加内・上川・歌登・美深・名寄)において、森林および草原(樹木のない)場所における植物多様性(とくにシダ植物)の調査をおこなった。各地点の範囲はほぼ1ヘクタールである。シダ植物についてはおおまかに種密度分布があきらかになっている(1979-2001年、佐藤による)。14年度は、(1)ササの覆った森林、(2)斜面のササの少ない森林、(3)森林伐採されたササ原、(4)畑周辺のササのない斜面草本優占地、(5)高地草地湿原での比較を行った。ここはいずれもミズナラとトドマツの混交林である。伐採の時期によってシラカバとダケカバが混在する。いずれも2地点の記録を行った。
集計解析はシダ植物で最もすすんでおり、約(1)5種、(2)15種、(3)3種、(4)10種、(5)10種が確認できた。一般的にはある地域フロラを考える場合、シダ植物種数の約10倍が維管束植物総種数に相当する。今回は1ヘクタールと狭い局所多様性の調査ゆえに、その内容は異なる。まだ集計途中の推定段階であるが、2ヘクタールの植物総種数は、(1)20種、(2)100種、(3)50種、(4)70種、(5)200種と思われる。
これらのことから、樹木が優占する平地では植物種が少なく、ササ侵入によりその多様性はさらに低くなる。高山草原の湿原周辺では総種数が豊かであり、畑周辺や伐採跡地でも斜面が植物多様性を維持することが示された。とりわけ凹凸を伴う微地形(特に斜面)で局所植物多様性を維持することが示唆された。
多雪地域での斜面の雪崩地点は、数ヘクタールにわたって草原になることから、この人間活動の及びにくいスポットが局所植物多様性を遺存させている可能性がある。畑周辺の斜面も北方森林の種遺存にもある程度役だっている可能性がある。大規模開発(大規模草地)が北海道の植物多様性の危機を招くかも知れない。有効な人為開発と植物多様性維持のための新しい開発スケールと手法を探る基礎資料を蓄積したい。
なお、一辺20km・10km・5km・2.5kmスケールにおけるシダ植物の積算種数の集計が行われ、北海道北部での最大積算ホットスポットは、それぞれ52種・41種・33種・26種であった。そのホットスポットの位置はスケールに応じて異なることが興味深い。最大ホットスポットを温存できるスケールの開発が望ましいであろう。