共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

氷河コア中の有機成分の解析
研究代表者/所属 名古屋大学地球水循環研究センター
研究代表者/職名 助教授
研究代表者/氏名 大田啓一

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

三宅隆之 名大地球水循環研究センター COE研究員

2

藤田耕史 名大環境学研究科 助教授

3

中澤文男 名大理学研究科 大学院博士過程D3

4

橋本重将 名大理学研究科 大学院博士過程D3

5

成田英器 北大低温研

研究目的 中低緯度の氷河から得られた雪氷サンプルをもちいて,その中に含まれる有機酸,炭化水素の分析をおこない,これらの成分と気候要素,もしくは人間活動との関係について明らかにし,中低緯度コアをもちいた気候変動復元や大気環境変化の解釈に役立てることを目的とする.
図1 ソフィスキー氷河ピットのアニオン成分プロファイル 図2 リッカサンバ氷河コアのアニオン成分プロファイル 
研究内容・成果  本研究では,アルタイ山脈のソフィスキー氷河,ヒマラヤ山脈のリッカサンバ氷河から得た雪氷サンプルをもちいて分析をおこなった.
 ソフィスキー氷河の4.5m深ピットから得られたアニオン成分のプロファイルを図1に示す.サンプルは2001年7月に採取され,花粉濃度と酸素同位体比プロファイルから,230cm付近が2000年の夏層,430cm付近が1999年の夏層であると推定された.またアニオン成分は,極域雪氷サンプルで見られる組成と異なり,ギ酸イオンが深さによっては主要成分となること,そして,そのような深さはおもに夏層に対応していることが分かった.一方,リッカサンバ氷河から得た15m深アイスコアのアニオン成分(図2)についてもソフィスキー氷河と同様,深さによってはギ酸イオンが塩化物,硫酸,硝酸イオンよりも高濃度を示すことがあった(e.g. 296-307cm深,587-592cm深など).リッカサンバ氷河コアは年層境界の推定作業が完了していないものの,汚れ層の深さとギ酸が高濃度で検出された深さがよく対応していることから,夏層で濃度が高くなっていたと考えられる.
 また,ソフィスキー氷河の雪氷サンプルをもちいた直鎖飽和炭化水素類(アルカン類)の測定では,全炭化水素濃度(T-HCs, 炭素数21〜32の濃度の総和)はアイスコアサンプルで1.1〜3.5ng g-1,ピットサンプル:1.7〜3.6 ng g-1,新雪サンプル:0.7〜9.9 ng g-1という濃度レベルを示した.これらは名古屋市での降水(2001年12月採取)中のT-HCsである,1.2 ng g-1に比較すると,1/2〜8倍程度高い値だった.CPI(炭素優先度指数)を比較すると,名古屋市の降水では0.97とほぼ1だったのに対し,氷河サンプルでは一つの新雪サンプルで0.95とほぼ1だったものを除き,1.17〜3.35と大部分の試料で1よりも大きい値を示し,植物や土壌起源の影響が大きいことが示唆された.またアイスコアとピットのサンプルにおける,全炭化水素濃度と年間沈着量の比較から,炭化水素濃度は積雪量ではなく,季節的・経年的な濃度変化に依存していると推察された.以上よりソフィスキー氷河においては,化石燃料の燃焼の影響は小さく,その濃度には季節的,経年的変化があることが推察された.

◎今後の課題
 ギ酸の発生源としては氷河周辺の植生から放出されている可能性があるものの,氷河上で藻類・バクテリア等の微生物活動が活発になる夏に濃度が高くなる傾向は非常に重要であると考える.一般に微生物活動により有機酸は消費されると考えられていることから,本研究で確認された,高濃度のギ酸イオンが雪氷中に保存される仕組みを考える必要がある.今後はこの問題を明らかにするために,まず微生物のバイオマスデータと比較検討をおこなう.また炭化水素類についても、アルカン類に加え、多環芳香族炭化水素類の測定も行うことにより、人為起源の影響の寄与をさらに詳しく解析できると考えられる。
図1 ソフィスキー氷河ピットのアニオン成分プロファイル 図2 リッカサンバ氷河コアのアニオン成分プロファイル