共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

シベリア・ツンドラ域において活動層が河川流出に与える影響
研究代表者/所属 北大北方生物圏フィールド科学センター
研究代表者/職名 助手
研究代表者/氏名 野村睦

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

石井吉之 北大低温研 助手

2

兒玉裕二 北大低温研 助手

3

大畑哲夫 北大低温研 教授

研究目的  この研究は、ツンドラ域において形成される活動層が河川流に与える影響を明らかにすることを目的とする。ツンドラ域では消雪後、土壌の融解が始まり活動層が形成され、その内部に帯水層を形成することも多い。代表者らは、活動層からの流出水が夏期の河川渇水流量維持に重要な寄与をしていることを、河川水温の形成過程から指摘している(2001年度低温科学研究所共同研究「ツンドラ域の河川における夏期の流量の形成機構」)。今年度は、活動層がない融雪期直後からもっとも発達する秋期にかけて、河川流量に対する活動層からの流出水の寄与の季節変化を明らかにしていくことに主眼をおいた。
  
研究内容・成果  活動層からの流出の寄与を調べるために、この研究では、流出応答特性の季節変化を活動層の変化と連関させて捉えるとともに、河川水温の形成過程に注目した。河川水温は供給水の温度、斜面の流出経路と河道流下中の水面と河床における熱交換によって決まる値である。水温形成を明らかにすることは、流出過程を探るために有効な手段である。
 対象地は東シベリア北極圏のチクシ(71゜N,128゜E)近くの試験流域(流域面積5km2、高度40〜300m)である。1999年にこの流域末端で得られた流量・水温と末端付近での気象データ、さらに流域末端から上流にかけて設定された1500mの河道区間の上流端における河川水温も解析データとして用いた。また、実測による活動層厚、地温データも用いた。これらのデータは全球エネルギー水循環観測計画アジアモンスーン観測(GAME)で得られたものである
 河川水温の解析は、河道区間を対象に、河川流量、活動層からの水の流入、水面と河床での熱収支を組み込んだモデルを用いて行なった。このモデルによる河道区間の上流端から下流端にかけての水温変化の計算結果を実測値と比較することにより、活動層からの流入量の定量化を図った。
 活動層は、融雪期直後の6月中旬から急速に発達し始め、秋期には数10cmに及んだ。この間、河川流量は降雨時を除き減水傾向にあったが、春期には比較的速やかな、夏・秋期では緩慢な減水特性を示す季節による差異が不明瞭ながら見られた。このことは、早い時期では活動層が薄いため、凍土融解水や流域に供給された融雪水・降雨水が地下水となり緩慢な応答特性をもつ流出成分となることが少なく、一方夏から秋にかけてはこれらの多くが地下水となり緩慢に流出することを示唆している。
 このような示唆は水温変化の観測結果と数値計算から裏付けられた。観測によれば、季節によらず河道区間の水温変化は比較的小さい。しかし、流量は春期のほうが夏期に比べ1オーダーほど大きく、その意味するところは異なっている。数値計算の結果よれば、活動層の薄い春期における水温変化は、水面への熱供給があるにもかかわらず、高流量のため抑制されており、一方、夏期には活動層から流出する比較的低温な水による移流熱のために水温上昇が抑えられ変化が小さい。
 以上のように、活動層の発達と河川流出には密接な関係があり、対象地の河川流出の特性を左右している。ツンドラ域全体においても活動層の発達と河川流出・水循環の関係は重要なものであると考える。