共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

永久凍土中のメタンガスの起源に関する研究
研究代表者/所属 名古屋大学年代測定総合研究センター
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 中村俊夫

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

森泉 純 名大工学研究科 助手

2

福田正己 北大低温研 教授

研究目的 本研究は,永久凍土中のメタンガスの起源や生成・放出過程に関する年代学的研究を目的とする.その第一歩として,サーモカルストイレイクとしてアラスが形成される際に永久凍土中のメタンが放出される可能性のあることから,アラス周辺の環境変遷史,形成時期を,アラス周辺から採取した堆積物についての花粉分析およびAMS 14C年代測定により検討した.
  
研究内容・成果 東シベリアには永久凍土が熱的に不安定になって融解・沈降してできた典型的なアラスが多数存在する.このアラスの形成過程において永久凍土中のメタンが放出される可能性のあることが指摘されている.今後のグローバルな地球温暖化によってアラスの形成が活発化し,メタンの放出が増加することが危惧されている.しかし,現存するアラスの形成時期やその形成環境についてはよくわかっていない.そこで,中央ヤクーチアにおいてアラス周辺の環境変遷史,形成時期を検討した.アラス周辺から採取した堆積物について花粉分析による古環境の推定,AMS 14C年代測定を行った.

今回調査したのは,東シベリアの中央ヤクーチアのUlakhan Sykkhanアラス,Uinakhアラス,Ulumaalyアラス, Maralay湖(62-63N, 130E)の4箇所のアラスである.これらのアラスは,レナ川の中位段丘であるTyungyuluu面に存在し,地表面から15-20 mほど落ち込み,中心には水深の浅い池を持つ.アラス周辺の堆積物を,ピット断面の掘り込みおよび凍土のボーリングにより採取した.すべて手作業であったため,堆積物の深さは地表面から82-132cm程度であった.堆積物中から植物片を計7試料採取し14C年代測定を行った.花粉分析は,堆積物だけではなく,最表層堆積物についても実施し,その結果を周辺の植生と比較した.以下のことが明かとなった.
(1)4つのすべてのアラスにおいて,採取した堆積物の最下層から得られた木材の14C年代はほぼ8000 BP(較正暦年代:8800-9500 cal BP)であり,この時期には,森林で覆われていたことが示された.
(2)採取した堆積物の層相から,有機物の乏しい土壌に森林が形成されていたが,地表面の陥没でアラスが8000 BPの時期に形成され,その後は有機物が堆積し易い環境になった.
(3)ロシアの極地域の森林の研究から,8000 BP前後は温暖期の初期にあたり,これに伴う何らかの環境変化がアラス形成の引き金となったと考えられる.
(4)約8000 BPのアラス形成初期には,アラス周辺の植生は,イネ科やヨモギ属などのステップ要素を伴う,カバノキ・カラマツの優先するものであった.すなわち,中央ヤクーチアの地域的な植生としては,カバノキ・カラマツの優先する森林に覆われていた.その後,カバノキの密度が増え,トウヒ属花粉が増加し,温暖な気候を反映したと考えられる.その後現在に向けてカバノキの花粉は減少した.約5000 BPには,ヨーロッパアカマツが増えている.

本研究は北大大学院地球環境研究科院生の片村文崇氏の調査・研究に負うところが多い.五十嵐八枝子博士には花粉分析を指導していただいた.ヤクーツク永久凍土研究所,ロシア科学アカデミー極東支部生物研究所には堆積物採取でお世話になった.