共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
生物の低温耐性における相転移制御戦略 |
研究代表者/所属 | 東京電機大学理工学部 |
研究代表者/職名 | 教授 |
研究代表者/氏名 | 村勢則郎 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
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所 属
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職 名
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1 |
上野聡 | 広島大生物生産学部 | 助教授 |
2 |
高橋浩 | 群馬大工学部 | 助教授 |
3 |
片桐千仭 | 北大低温研 |
研究目的 | 物質の相変化は生体機能に急激な変化をもたらし、生存を危うくすることになる。そこで、低温下で棲息する生物は、液体や液晶状態から結晶状態への相転移を回避するしくみを備えている場合が多い。低温といっても、生体膜を構成する脂質、貯蔵物質としての脂質、生命活動の媒体である水など、物質により相転移の関係する温度領域は異なる。本共同研究は、X線回折、DSCをはじめとする様々な物理化学的手法を用いて、異なった生命分子集合体の低温における相転移挙動の詳細を実験的に明らかにし、生物の相転移制御戦略を物理化学的視点から統一的に理解することを目的としている。 |
研究内容・成果 | 耐寒性生物の生体膜は、構成するリン脂質に不飽和脂肪酸が多く含まれているため、低温でも相転移は回避され流動性が保たれるとされる。越冬性のハエにおける研究でも、エネルギー源であるトリアシルグリセロール(TAG)を構成する脂肪酸の不飽和度を高くすることによって低温によるTAGの結晶化が回避され、リパーゼによる分解を可能にし、代謝されやすくなっていると考えられている。本共同研究者の一人(CK)は、TAGトータルとしての脂肪酸の不飽和度は同じでも、不飽和脂肪酸の分布を制御することによって、より効率良く結晶化を回避することが可能であることを明らかにした。 本研究において、共同研究者(HT、SU、CK)は越冬性のハエから抽出したTAGとハエ体内のTAGの小角・広角X線回折/DSC同時測定を行い、ハエ体内におけるTAGの結晶を直接的に検出することに成功した。また、抽出TAGとハエ体内の結晶化プロセスには差異のあることを見出した。すなわち、低温にすると抽出TAGでは粗な分子パッキングと密なパッキングに対応すると考えられる結晶構造が出現するが、ハエ体内においては密なパッキングの結晶構造は観測されない。(文献1、添付図1)ハエ体内においては、分子集合体のサイズを小さくして界面を大きくし、それによって密なパッキングを妨げていると考察することができる。今後さらに解明していく必要がある。 生体系はゲル状態を呈することが多い。共同研究者(NM、HT、CK)はまた生体系のモデルとして架橋高分子ゲル(セファデックス)を用い、ゲル中の水の凍結・融解挙動を二次元X線回折/DSC同時測定を使用して調べた。その結果、架橋密度の異なったセファデックスゲルにおいて、生成する氷晶のサイズ、形状が異なっていることを示す回折パターンが得られた。(文献2、添付図2)架橋密度の相違は高分子網目構造内における水分子集合体のサイズ、形状の違いを反映しており、網目構造の存在は氷晶形成を妨げる効果をもっていることが示唆された。 共同研究の中で、低温を生きる生物は、脂肪酸の不飽和度という化学的因子を制御することにより相転移を回避する戦略と、分子集合体のサイズ・形状という物理的因子を制御することにより相転移を回避する戦略を身につけていると整理できるとの考えに至った。このような整理の仕方は、更に詳細な実験を通して正当化されていく必要がある。そして、本共同研究を遂行していく中で、生命分子集合体の構造・相転移と機能の関係を明らかにするうえで、X線回折/DSC測定が有力な実験手段であることが改めて確認された。 文献1 H. Takahashi, S. Ueno, C. Katagiri : J. Appl. Cryst., in press. 文献2 N. Murase, S. Abe, H. Takahashi, C. Katagiri, T. Kikegawa: CryoLetters, to be submitted. |