共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

氷縁海域における海氷消長過程の解明
研究代表者/所属 宇宙開発事業団 地球観測利用研究センター
研究代表者/職名 宇宙開発特別研究員
研究代表者/氏名 木村詞明

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

二橋創平 宇宙開発事業団 地球観測利用研究センター 宇宙開発特別研究員

2

若土正曉 北大低温研 教授

3

深町康 北大低温研 助手

研究目的 海氷域は時間的な変動が大きく、特に氷縁付近の海氷の状態は短い時間で大
きく変動している。また、近年の研究により海氷の変動が地球的な規模での
気候システムにも大きな影響を及ぼしうることが明らかになってきた。しか
し、海氷域の変動のメカニズムには未知な部分が多く、その解明はこれから
の重要な課題である。本研究の目的は、人工衛星による観測データから得ら
れる海氷の情報と、海氷・海洋の現場観測データを用い、海氷域の変動メカ
ニズムを解明することである。特に、氷縁付近での海氷の動き、融解の速さ、
生成の有無などを検出することに重点を置く。
  
研究内容・成果 まず、人工衛星搭載のマイクロ波放射計データから、日々の海氷密接度と海
氷漂流速度を計算し、最近10年分の南北両半球のデータセットを作成した。
これまでの研究により、海氷縁域での海氷の動きはおおまかには海上風の向
きと大きさによって決定され、沖向きの風によって海氷が沖向きに漂流する
ことにより海氷域が拡大していることが明らかになっている。しかし、多く
の場合氷縁海域では海氷域が拡大しながら同時に融解しているため、海氷域
の拡大する速さと海氷の動く速さは一致しないと考えられる。そこで、この
2つの速さを比較することにより、氷縁で海氷が融解する速さの見積もりを
行った。その結果、冬期であってもほとんど全ての海域で氷縁では海氷の融
解が起こっていることが分かった。その水平方向の融解の速さ(融解によっ
て海氷域が後退する速さ)はオホーツク海で毎秒5から10センチメートル
であり、オホーツク海では一冬のあいだに約130万平方キロメートルの海
氷域が氷縁での融解によって消滅していると見積もられた。また、北半球の
氷縁海域で海氷域の融解による後退が最も速いのはラブラドル海であり、平
均で毎秒20センチメートルを越える速さであることも分かった。
一方、オホーツク海については晴天日の可視画像からも海氷漂流速度を計算
し、より細かい空間スケールでの海氷の挙動に着目した解析を行った。その
結果、海氷の動きは氷縁の数十kmでは氷縁に近づくほど速くなることが明ら
かになった。つまり、氷縁では海氷は徐々にまばらになっていき、そのため
に海氷の融解が促進されていると考えられる。この氷縁での海氷の加速の原
因としては、海氷の内部応力が氷縁ほど小さくなることや、海氷盤の間に生
じる波による圧力の効果などが考えられる。
さらに、北海道のオホーツク海沿岸に設置されている北海道大学の流氷レー
ダーによる観測画像からも海氷漂流速度の導出を試みた。流氷レーダーで通
常記録されている3時間間隔のデータでは、計算の成功確率は低かったが、
2000年に得られた15分間隔の観測データを用いることにより、沿岸部
の海氷の動きの詳細とその変動をとらえることに成功した。これにより、潮
汐による全体的な氷野の動きや、数百メートルのスケールの海洋性の渦の変
動を明らかにすることができた。様々な条件で計算を行った結果、流氷レー
ダーの画像から海氷の漂流速度を計算するには30分から1時間程度の時間
間隔の画像を用いて面相関によって行うのが最も適していることが分かった。
漂流速度の計算方法が確立されたことにより、流氷レーダーによる観測画像
を沿岸域の海氷の分布のモニターのためだけでなく、海洋渦の変動や潮汐の
解析、さらには海氷域内部の物理過程の解明のために有効利用できるように
なったと言える。