共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

植物の寒冷環境適応機構に関する研究
研究代表者/所属 低温基礎科学部門環境低温生物グループ
研究代表者/職名 助手
研究代表者/氏名 荒川圭太

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

藤川清三 北大大学院農学研究科 教授

2

長尾学 北大大学院農学研究科 農学研究科研修員

3

桑原慎子 北大大学院農学研究科 農学研究科研修員

4

宇梶徳史 生研機構(北大大学院農学研究科) 派遣研究員

5

遠藤千絵 農業技術研究機構北海道農業研究センター 主任研究官

6

村井麻理 農業技術研究機構東北農業研究センター 主任研究官

7

内海泰弘 九州大大学院農学研究院 助手

8

竹澤大輔 北大低温研 助手

研究目的 本研究では、植物における寒冷環境への適応機構ならびに寒冷環境に起因する環境刺激に対する応答機構を明らかにすることを主な目的としている。本年度は、これまでに単離した樹木皮層細胞における低温誘導性遺伝子の機能を明らかにするために、目的とする遺伝子を導入した形質転換シロイヌナズナを用いて凍結耐性への影響を調べ、凍結耐性機構における目的遺伝子の生理機能を評価することを試みた。
  
研究内容・成果  クワ(Morus bombycis Koidz)の皮層組織では季節的な低温馴化によって耐寒性が著しく向上する。そこで本研究では、冬季の皮層組織において小胞体(ER)内腔に蓄積する二つの主要な可溶性蛋白質(WAP20, WAP27)を同定するとともに、WAP20およびWAP27蛋白質をコードする遺伝子を用いて形質転換シロイヌナズナを作出し、それらの形質転換シロイヌナズナの耐寒性を評価することにした。
 WAP20とWAP27遺伝子の翻訳産物はそれぞれsmall heat shock proteinとgroup III LEA proteinと相同性が高いことが知られている。これらの遺伝子をそれぞれ恒常的に発現する形質転換シロイヌナズナを作出して、これらの冬季誘導性ER蛋白質の蓄積がシロイヌナズナの凍結耐性にどのような影響を与えるのかについて調べた。いずれの実験でも、23℃にて連続光の下で20日間生育させた未馴化株とそれらを2℃にて2日間処理した低温馴化株を用い、平衡凍結法による凍結耐性試験にそれらから採取した緑葉を供試して両者の耐性を比較した。
 WAP20遺伝子を導入した各形質転換体の凍結耐性(LT50)は-3.0℃で、対照区のものとほぼ同レベルであった。これらを低温馴化処理した場合でも両者の凍結耐性はほぼ同レベル(-6.0℃程度)であった。
 また、WAP27遺伝子を導入した各形質転換体では、対照区の凍結耐性とほぼ同レベル(約-3.0℃)であった。一方、低温馴化処理した場合には、対照区の凍結耐性が約-5.5℃であったのに対して形質転換体では約-6.1℃と、低温馴化した試料では両者の間ではわずかに差がみられた。
 以上の結果から、WAP20遺伝子の発現によってシロイヌナズナの緑葉に蓄積したsmall heat shock proteinは、低温馴化した植物体においてわずかながら凍結耐性の上昇に効果的であることが示唆された。しかし、この遺伝子産物がどのようなメカニズムでシロイヌナズナの緑葉やクワの皮層組織の凍結耐性の上昇に関与するのかという点についての詳細は現段階では不明である。
 今後は、低温馴化した植物細胞におけるWAP20ならびにWAP27蛋白質の生理的な役割などを明らかにするために、大腸菌を用いた大量発現系を利用してリコンビナント蛋白質を調製して凍結保護活性の検出などを試みるなど、植物の寒冷環境適応機構に関する研究を継続する予定である。