共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

低温におけるcis-不飽和脂質の結晶成長と相転移機構に関する研究
研究代表者/所属 大阪大学大学院理学研究科
研究代表者/職名 助教授
研究代表者/氏名 金子文俊

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

川口辰也 大阪大学大学院理学研究科 助手

2

古川義純 北大低温研

研究目的 cis-不飽和脂質は生体組織に広く分布し、生体膜の構成要素、生体膜の機能調節、エネルギー貯蔵、高生理活性物質の出発物質などの役割を担っている。近年、脂質は再生産可能な天然資源として注目されている。これまで脂質の各種誘導体は飽和炭化水素鎖をもつものを中心に様々な分野で活用されてきたが、cis-不飽和炭化水素鎖をもつ誘導体の応用も行われ始じめた。本研究では、プラスチィックスの成形の際に滑剤として用いられているオレインアミドの結晶多形に関する研究を行った。低温における結晶化実験には、低温科学研究所の低温実験施設を利用した。  
  
研究内容・成果  オレイン酸アミド[cis-CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7CONH2]の結晶多形について、DSC、ラマン散乱法、赤外吸収法を用いて調べた結果、少なくとも4つの結晶変態A、B、C、D相が存在することが明らかになった。
 融液からの結晶化では、融点が76℃のC相が生じる。C相を冷却していくと可逆的に約10℃以下ではB相、0℃以下ではA相へと固相転移を行うことが分かった。また0-25℃の温度範囲では、融液固化試料はもう一つの固相であるD相へと徐々に固相転移するが、このD相は昇温すると約40℃でC相へと固相転移を行うことが明らかになった。
 このような複雑な多形現象を示すオレイン酸アミドの各相がどのような構造を形成しているかについて、赤外ならびにラマンスペクトルを元にして調べた結果、以下のことが明らかになった。A相からB相へ可逆固相転移を行うと二重結合部分に小さなコンフォーメーションの変化が生じる。さらにB相よりC相へと可逆転移を行なった際には、二重結合部分からメチル基側のポリメチレン鎖に著しいコンフォーメーションの乱れが発生することが明らかになった。一方アミド基側のホリメチレン鎖には、殆ど変化が現れていない。この転移機構は、オレイン酸のγ→α転移で生じる構造変化と良く対応しているが、オレイン酸ではdisorder相がわずか15℃の範囲内でしか存在しないのに対して、オレアミドでは約66℃の範囲でdisorder相が存在する。これはアミド基が、脂肪酸と同様な二量体をつくる水素結合と、二量体を側面方向に帯状につなぐ水素結合を形成するために、かなり高い温度まで結晶構造を維持することが可能になるためと考えられる。
 より詳細な各結晶変態の構造情報を得るため、また各結晶変態の相対的な熱力学的な安定性を調べるために溶液からの結晶化を行った。これまでのところ固相でのB→D転移とC→D転移が確認された0℃以上の温度範囲だけでなく、-10℃より0℃の間においても溶液結晶化ではD型のみが得られた。これまでにA、B、C変態は溶液結晶化では得られていない。また溶液中に長時間放置してもD型単結晶には変化はみられなかった。従って、約40℃以上の温度域ではC型が最安定相、これ以下の温度域ではD型が最安定相であり、A型とC型は準安定相であると結論できる。
 D型は短冊状のモルフォロジーをもつ単結晶を形成する。この赤外・ラマンスペクトルからは、メチル基側とアミド基側のボリメチレン鎖は共に伸びきり鎖形態を取り、並行パッキングの副格子を形成することが明らかになった。より詳細な構造情報を得るために、単結晶構造解析を行う予定である。