共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

北海道に自生するザゼンソウの発熱現象の解析
研究代表者/所属 岩手大寒冷バイオ
研究代表者/職名 助教授
研究代表者/氏名 伊藤菊一

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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竹澤大輔 北大低温研 助手

研究目的  ザゼンソウは早春に花を咲かせるサトイモ科の発熱植物である。岩手県内に自生するザゼンソウは、3月上旬から4月にかけて開花し、その肉穂花序と呼ばれる器官が特異的に発熱することが明かとなっている。これまでに、その肉穂花序における発熱には、ミトコンドリア内膜に存在するシアン耐性呼吸酵素(AOX)が重要な働きをすることが予想されていたが、その詳細は不明のまま残されていた。本研究においては、北海道におけるザゼンソウを調査するとともに、AOXをコードする遺伝子をクローン化しその構造および発現を解析することを目的とする。
  
研究内容・成果  岩手県内に自生するザゼンソウは、その発熱部位である肉穂花序が雌期にのみ特異的な恒温性を示し、両性期および雄期になると明確な発熱現象が失われることが明らかになっている。このような特性は、北大植物園に自生するザゼンソウについても同様の傾向を示すことが判明し、両群落地に自生する植物体がほぼ同様の温度制御システムを有することが明らかになった。また、それぞれの自生地における果実の形成率を測定したところ、岩手県内および北大植物園において、それぞれ30%および10%と異なる値を示すことが判明した。自家不和合性のザゼンソウは、発熱により訪花昆虫を誘引し、その受粉率を高めることなどが考えられているが、今回得られた果実の形成率の差異を明らかにするためには、今後、訪花昆虫などを含むより詳細な解析が必要であると考えられた。
 また、ザゼンソウの有するAOX遺伝子を同定するため、岩手県内に自生する発熱中の植物体の肉穂花序から全RNAを抽出し、RT-PCR等によりザゼンソウAOXをコードする全長cDNAのクローン化に成功した。得られたcDNAは1,233bpの塩基配列を有しており、そのオープンリーディングフレームは349個のアミノ酸を含む約39.2kDaのタンパク質をコードしていた。また、そのアミノ酸配列には、2量体形成に重要であると予想されるシステイン残基や、活性中心を構成すると予想される鉄結合モチーフなどが良く保存されていることが判明した。さらに、得られたcDNAをプローブに各ステージにおけるAOX mRNAの発現を解析したところ、ザゼンソウAOXは、発熱中の肉穂花序においてのみ特異的な発現が観察されることが明らかになった。この知見は、AOX遺伝子産物が本植物の組織特異的発熱現象に密接に関わっていることを強く示唆するものである。今回得られたAOX遺伝子については、今後、北海道を含む国内各群落地のザゼンソウAOX遺伝子との比較などを行い、それぞれの群落地における発熱特性とAOXの遺伝的変異の有無などの解析を行うことにより、ザゼンソウにおける表現型としての発熱現象をより分子生物学的に説明しうる可能性が示唆された。