共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
融解を経験した亜極域の氷コアからの環境情報抽出 |
研究代表者/所属 | 国立極地研究所 |
研究代表者/職名 | 助教授 |
研究代表者/氏名 | 東久美子 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
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所 属
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職 名
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1 |
本山秀明 | 国立極地研究所 | 助教授 |
2 |
古川晶雄 | 国立極地研究所 | 助手 |
3 |
的場澄人 | 国立極地研究所 | COE非常勤研究員 |
4 |
飯塚芳徳 | 東京経済大学 | 非常勤講師 |
5 |
成田英器 | 北大低温研 |
研究目的 | 複雑な北極圏、北半球の気候システムを明らかにするためには、グリーンランドだけでなく、北極海を取り巻く氷河や、アルプス、ヒマラヤなどの山岳域の氷河からも氷コアを採取し解析することが必要である。しかし、これらの地域では夏期に融雪が生じ、融解水によって化学成分の再分配が行われるため、この地域で採取されたコアから、高い時間分解能で定量的な議論を行うことは難しい。本研究の目的は、融解が引き起こす化学成分の再分配過程を解明し、融解を経験した氷コアから環境変動情報を抽出することである。 |
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研究内容・成果 | 1995年にノルウェー・スバールバル諸島北東島西氷帽で行われた観測で、211mの雪氷コア掘削と積雪断面観測が行われた。観測から、ここでは夏期に融解が生じ、積雪層には融解水が再凍結した氷板が一年あたり幾つか存在することが分かっている。 雪氷コア中1m中の氷層の割合(MFP)は、表面から211m深まで0〜100%の範囲で変化し、MFPの変化は、気温の指標となる酸素の安定同位対比(delta18-O)との相関を示した。MFPの高い2〜35mのdelta18-Oの標準偏差は、MFPの低い40-80mより小さく、MFPの高いところでは融解水によるdelta18-Oプロファイルのスムージングが起きていることと、化学成分が移動する可能性が高いことが分かった。 融雪を経験した積雪、氷板、氷板の直上・直下の積雪中の化学成分濃度を測定し、塩化物イオンとナトリウムイオンの濃度比(Cl/Na比)を比べた。融雪を経験した積雪中のCl/Na比は海水中のCl/Na比(1.17[mol/mol])より低い値を示し、その積雪層の下の幾つかの氷板中のCl/Na比は海水中のCl/Na比より高い値を示した。融雪によって積雪中から化学成分の流出する場合、塩化物イオンはナトリウムイオンに先んじて流出すると言われている。今回得られた結果は、融解水によって積雪中から流れ出した化学成分が、氷板中に再分配されたということを示している。 当初の予定では、化学成分の流出、再分配過程の詳細を、融雪期の積雪観測から調査する予定であったが、共同研究において、同一研究者の複数回の出張が認められなかったため、観測を中止せざるを得なくなった。そのため、今回の共同研究はデータを使った解析のみの報告となった。 今後の課題は、化学成分の移動・再分配と融解水の量の定量的関係を明らかにする事である。そのために、融雪期の積雪観測から得られる、化学成分流出の素過程を明らかにする必要がある。 |
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