共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

北パタゴニア氷原の氷河変動とそのメカニズム II
研究代表者/所属 筑波大学地球科学系
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 安仁屋政武

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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成瀬廉二 北大低温研

研究目的 デブリカバー氷河は厚いデブリを氷河表面にもち、これが断熱作用を及ぼすことで表面融解が進まない。従って、消耗域での気温上昇など気候変動の影響ー例えば急速な後退や表面高度の低下ーを受けにくいとされている。このようなことから気候変動への応答がデブリフリー氷河とは異なる。一方、カービング氷河はカービングの量が湖や海の形状や水底地形、水深等に影響されるので、陸末端氷河とは変動パターンが異なる。
 今回の共同研究では、北パタゴニア氷原に分布するデブリカバー氷河とカービング氷河の近年の変動をデブリフリー氷河および陸末端氷河と詳細に比較して、変動の特徴を明らかにし、変動メカニズムを考察する。
  
研究内容・成果  今回はカービング氷河の変動に興味深い現象が見られたので、この氷河に焦点を当てた。北パタゴニア氷原の北西部に位置するカービング氷河であるレイチェル氷河とグアラス氷河を対象に、空中写真、衛星データ、現地空撮写真等を使って最近の末端変動を明かにし、カービング氷河の末端変動の特徴を捉えた。1999年まではデータが数年おきにしかなかったので、データ間の変動は見かけで、実態は不明であった。しかし、1998年11月,1999年11月,2001年12月の空撮写真ではそれまでは捉えられていない、興味深い末端の様子が捉えられた。パタゴニアの多涵養・多消耗の質量収支の大きな氷河では、氷河の末端変動も年ごとおよび季節変化も激しいことが予想される。そこで、空撮写真に加えて1998年2月の空中写真、2000年2月のランドサットTM、2001年2月のETM、2002年2月のASTER の画像を解析した。
 空撮写真によると、レイチェル氷河では1999年11月-2001年12月で末端は後退しているが、2001年の空撮写真には後退した面積よりも大きな氷山が浮いている。このことは、前進してから分離したことを示唆する。グアラス氷河では1998年11月から2001年12月には見かけでは前進したような印象を与えるが、詳しくみると、密接した氷山の塊であるので、末端が短時間で分解した可能性がある。
 2000年3月8日のランドサットTM, 2001年3月11日のETM, 2002年2月10日のASTER画像を比較すると、レイチェル氷河は2000年から2001年では末端は一部が後退、一部が前進したように見える。しかし、前進したように見える部分は氷山のパックの可能性もある。2001年から2002年で大きく変わっている。特に、2002年の画像では末端数100メートル部分がデブリに覆われている。しかし、2001年の画像にはデブリは全くなく、また、3ヶ月前の空撮写真にも写っていないので起源が不明である。2002年の画像には長径1km近い氷山が浮いており、湖の大半は氷山で充填されている。グアラス氷河では2000年から2001年にかけて画像では前進したように見える。2001年から2002年は見かけではほとんど変化がない。しかし、2000年から2001年の見かけの前進は氷山のパックと考えられるので、2001から2002年は活発な氷山の生産があったことになる。
 2つの氷河の変動の特徴から、末端が大きく後退する前に前進している可能性がある。前進により氷河が加速的に薄くなり、浮きやすくなり、分解しやすくなる。この2つの氷河では、最近はこのようなプロセスで末端後退が進んでいる可能性がある。北パタゴニア氷原では他にもこのようなbehaviorをするカービング氷河があると考えられる。