共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

自然浮遊状態における雪結晶の昇華実験-角柱状結晶を中心として
研究代表者/所属 北海道教育大学教育学部
研究代表者/職名 助教授
研究代表者/氏名 高橋庸哉

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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遠藤辰雄  北大低温研  助教授 
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研究目的  雪結晶の昇華過程については幾つかの研究がなされているだけで不分明な点が多い。Young(1993)は巻層雲の雲底近くで採取された軸比の際だった角柱状結晶はプリズム面からの昇華が通風で促進されるためにできるのかもしれないと考えた。他方、Nelson(1998)は氷の結晶が丸みを帯びた形状に変化することを実験で見いだしたが、大気中での通風の影響を考慮したものでなかった。本研究の目的は、雪結晶の自然浮遊状態を実験的に再現し、大気中での雪結晶の昇華過程を明らかにすることにある。雪結晶の昇華過程の解明は天然の降水機構を論ずる上ばかりでなく、地球温暖化のモデリングなどで放射収支に与える雲の影響を評価する際にも重要である。
図1 昇華させた雪結晶の例。 図2 軸比の温度依存性。 
研究内容・成果  実験は鉛直過冷却雲風洞(Takahashi et al., 1991)を用いて行った。この風洞では雪結晶の落下速度に等しい上昇流を与え、雪結晶を空中の1点に浮遊させながら成長あるいは蒸発させることができる。超音波噴霧器で雲を発生させ、水飽和を実現し、雪の結晶を一定時間気相成長させた。その後、噴霧器を止め、未飽和として雪結晶を昇華させた。実験は角柱状結晶の成長する-5〜-8℃で行なわれ、採取した雪結晶から昇華によるその形態や質量、大きさの変化を調べた。落下速度及び露点温度は連続的にモニターされた。
 図1に得られた結晶の例を示す。(a)は針の成長温度領域である-5.7℃で15分間成長させた後、7分間昇華させたものである(氷に対する未飽和度約5%)。質量は昇華開始から約8割失われている。針状結晶の先端が失われ、角柱状の形態になっている。(b)は角柱の成長温度領域である-6.5℃で15分間成長させた後、10分間昇華させたものである(氷に対する未飽和度約5%)。この10分間の昇華によって、質量の約8割が失われた。プリズム面を保っているが(写真上)、別の角度からみるとプリズム面の片面で昇華が特に進んだことがわかる(写真下)。雪結晶の落下速度に相当する上昇流を受ける結晶の下側で昇華が進むためと考えられる。なお、結晶中心の左右に球形のものが認められるが、これはシリコンオイル中に結晶を採取した時に残された気泡である。結晶が中空になっていたことを示している。
 図2は軸比の温度依存性を示したものである。縦軸が軸比(2a/c。ここでaは結晶の半径、cは結晶の長さ)、横軸が成長温度を示す。図中の黒丸は水飽和条件下で15分間成長させた結晶の軸比、白丸は15分間成長させた後蒸発させたもので質量が蒸発前の1/2以下になった場合を示す。蒸発前後で軸比に顕著な変化は見出されなかった。Young(1993)が可能性を指摘したようにプリズム面の蒸発が通風によって促進され、細長い角柱ができるとは考えがたい。また、Nelson(1998)の実験結果のごとく、昇華によって丸みを帯びた形状に変化することは大気中の雪結晶には当てはまらないことがわかった。昇華過程における落下速度の時間変化は直線で近似された。
 今後はデータ数を増やすとともに、雪結晶を再成長させ、雪結晶の成長に与える蒸発履歴の影響についても考察したい。
図1 昇華させた雪結晶の例。 図2 軸比の温度依存性。