共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

寒海域藻類の環境応答機構の研究
研究代表者/所属 神戸大学・内海域機能教育研究センター
研究代表者/職名 助教授
研究代表者/氏名 村上明男

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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田中 歩  北海道大学低温科学研  教授 
02 田中 亮一  北海道大学低温科学研  助手 
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研究目的 真核光合成生物の葉緑体の共生起源と考えられているラン藻(シアノバクテリア)は、光合成色素としてクロロフィルaとフィコビリン類を持ち、この色素組成がラン藻の系統分類の主要基準となっている。しかし近年、クロロフィルbやクロロフィルdをもつ新規の酸素発生型原核光合成生物が見いだされ、その分子系統解析の結果はこれらの新規光合成生物もラン藻の系統群であることが明らかになってきた。これらの事実は、光合成色素の多様性と進化、酸素発生型光合成生物の初期進化等の課題を考える上で、重要なポイントである。本研究では、海産のラン藻について、その色素組成の多様性と光などの環境への応答機構を明らかにすることを目的とした。
  
研究内容・成果 ラン藻を含む単細胞性藻類の研究は、海水、淡水ともにプランクトン性のものを中心に行われてきている。しかし、沿岸域等の底質や海藻(海草)などの生物の表面に付着して生息する種も数多く知られており、これらも生態学的に重要であると考えられている。しかし、これらの藻類の単離操作がプランクトン性のものと比べて多少困難が伴うので、網羅的な研究はあまり進んでいない。一方、沿岸域の環境条件は空間的にも時間的にも変異や変動が顕著なので、プランクトン性のラン藻には見られない生理学的・生化学的特徴をもった藻類が見いだされる可能性が高い。
本研究では、北海道沿岸をはじめとして日本各地の沿岸から、大型海藻の藻体表面に付着する単細胞性藻類の分子系統による種の同定を行うとともに、光環境適応能などの生理学的特性を明らかにするために、藻類の分離培養実験を進めた。海藻(紅藻類や褐藻類)の藻体表面の付着藻を識別するためには、海藻組織の切片を大量に作り、実体顕微鏡や倒立顕微鏡のもとでひとつひとつ確認する作業が必要である。実際に紅藻類の数種で試みたところ、数十ミクロンと比較的サイズの大きい付着藻類(ラン藻類)は十分識別可能で、分離操作も容易であった。しかし、いくつかの培地組成を適用してみたが成長が著しく遅く、人工培養は困難であった。一方、培養途中で藻体の色調の変化(橙褐色〜緑褐色)がみられ、光合成色素系に補色適応能をもつ可能性があることが示された。現在までに数種類の付着藻の培養株がかろうじて維持しそうである。
これらの付着藻の中に、クロロフィルdをもつ可能性のあるラン藻類の株が複数選別されている。また、光合成色素・電子伝達系などにおいても今後興味ある解析結果が期待される。付着藻類は一般に培養が困難か、あるいは成長速度が顕著に遅い例が多い。これは、付着対象である紅藻類に何らかの依存性がある可能性もある。ある種のラン藻では、海藻類の仮根のような付着構造体がみられ、細胞極性がある可能性も示唆された。このことはラン藻類の進化系統性にも興味ある結果である。本年は、環境応答機構に関しての研究面では、進展が少なかった。しかし、ある種の紅藻類では海藻表面に多種類の動植物が共生(寄生)していることが明らかになった。これら自然藻体で観察された事実をもとに、培養系を用いて環境要因に関する適応機構の解析を進める予定である。