共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

緑藻の光化学系変異体の物理化学的解析
研究代表者/所属 北大低温研
研究代表者/職名 助教授
研究代表者/氏名 皆川純

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

01

小野高明  理化学研究所  チームリーダー 
02 寺本陽彦  理化学研究所  フロンティア研究員 
03 田中歩  北大低温研  教授 
04 田中亮一  北大低温研  助手 
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研究目的 光合成光化学系IIのD1タンパク質のC末端のプロセッシングは、酸素発生Mn複合体の形成に必須である。このD1タンパク質のC末端付近のアミノ酸残基の性質が、プロセッシング自体やMn複合体の機能に多様な影響を与えることが示唆されてきたが、その詳細はわかっていない。本研究ではプロセッシング後のC末端のアミノ酸残基にタンパク質としての局所立体構造に大きな変化をもたらしうるPro残基をそれぞれ導入し、その効果を検討した。
  
研究内容・成果 D1タンパク質は、ポリペプチドの合成後、344番目のアミノ酸残基と345番目のアミノ酸残基の間で切断され(プロセッシング)、成熟型となる。この成熟型が形成されることは、光化学系IIの主要な活性である酸素発生活性の実現に必須であることは従来の研究でわかってきた。本研究では、プロセッシング後のC末端の2残基Leu343(-2位置)とAla344(-1位置)に注目し、タンパク質としての局所立体構造に大きな変化をもたらしうるPro残基をそれぞれ導入した。その効果を検討したところ、野生型と比べ変異型には以下のような違いが見られることがわかった。
 1)変異体Leu343→Pro(LP変異体)は光独立栄養条件で生育したが、C末端残基の置換体Ala344→Pro(AP変異体)は光従属栄養条件でした生育しなかった。 2)熱発光の測定より、LP、AP両変異体ともS状態の酸化還元電位が低下していることがわかった。
 3)蛍光収率のキネティクス解析より、LP変異体は電荷再結合の速度に若干の低下が見られ、AP変異体はP680+の再還元速度に大きな低下が見られることがわかった。
 4)EPRスペクトルの解析より、LP変異体は正常なマルチライン信号を示すのに対し、AP変異体ではマルチライン信号が見られず、S3スプリット信号が見られた。
以上の結果より、C末端-2位置の残基であるLeu343に対する置換も、C末端-1位置の残基であるAla344に対する置換も、Mn複合体の酸化還元電位に同様な効果をもたらすこと、また実際の電子移動速度にも影響が見られることがわかった。しかしより軽微な影響を受けた-2位置換体は、酸素発生を十分に行い、細胞の光独立栄養生育を支持したのに対し、より重篤な影響を受けた-1位置換体は酸素発生をほとんど行わず、細胞は光独立栄養生育を行うことができなかった。これは、この置換体のEPR信号を調べたときに、Mn複合体のMn-Mn相互作用に大きな影響が見られたことと一致した。