共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

高分子物質(水産加工食品等)中の不凍水と凍結水の構造研究
研究代表者/所属 水産大学校水産情報経営学科
研究代表者/職名 草薙 浩
研究代表者/氏名 草薙浩

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

01

堀口 薫  北大低温研  助教授 
02 水野悠紀子  北大低温研  助教授 
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研究目的  水が0℃以下の広い範囲で凍りはじめる不凍水の問題は寒冷圏での動植物の生命維持を初めとして地球上の水の関わる全ての現象にとって基礎と応用の両面から重要なテーマである。この問題を基礎的に解明するアプローチ法の1つとして、水産加工食品等の高分子物質中の不凍水と凍結水の構造を、熱測定法、赤外スペクトル法を用いて分子レベルで研究することを目的とする。構造が分子レベルで解明されることによって、新しい水産加工食品や難着雪氷材料の開発に繋がる研究への発展が期待できる。
 本課題では、凍結現象を解明する基礎となる液体水の構造を、分子動力学(MD)法で解析して赤外スペクトル法で検証した結果を報告する。
図1 液体水の近赤外スペクトル  
研究内容・成果  液体水の赤外スペクトルの測定はPerkin Elmer 2000 FT/IR分光器を用い、2種類の厚みを変えた液体セルに入れた蒸留水を用い8000〜4000 cm-1と6500〜450 cm-1について、温度25℃、4 cm-1分解能で行った。
 分子動力学計算は富士通(株)のWinMASPHYC Stdソフトを用いて行った。MD法による赤外スペクトルの計算は、水分子にフレキシブルモデルを用いて原子の分子内・分子間振動の時間相関関数から計算するプログラムを作成して行った。液体水のモデルは216分子を一辺12Åの立方体格子に入れ周期境界下にNPTアンサンブルで、計算ステップ幅0.1fsで100万ステップ(0.1ns)計算後、5ステップ毎にHDに出力した10万ステップ(10ps)の原子速度成分を用いた。0.5fs間隔の10psのデータ(2万個)を用いてフーリエ変換し、8000〜0 cm-1のスペクトルを分解能(データ点間隔)4.1 cm-1で得た。水分子の分子間ポテンシャルはソフトに付属のSPCEポテンシャルを使った。OH結合の分子内ポテンシャルは、放物線形の調和近似関数形とMorse形非調和近似形の二種類を用いた。
 図1(a)に液体水の実測スペクトルを示す。3300 cm-1付近にOH伸縮振動の基本音、5000 cm-1付近にOH伸縮振動と∠HOH変角振動との結合音が、7000 cm-1付近にOH伸縮振動の2倍音が観測されている。OH結合の分子内ポテンシャルに非調和近似形を用いてMD法で計算した赤外スペクトルを図1(b)に示す。この場合、5000 cm-1と7000 cm-1付近に結合音と2倍音が現われている。図1(c)の調和近似関数形の場合にはこれらのバンドは現われなかった。OH、NH、CH等の基本振動は中赤外波数領域にあるが、その振動が完全な調和振動でなく非調和項を持つために基本振動間の結合音や倍音が起こり、これが近赤外領域に観測されるが、非調和項が基本振動に比較して小さいために、結合音や倍音の吸収は相対的に弱くなる。図1でこのことがよく分かる。ところが、本MD計算では5000 cm-1と7000 cm-1バンドの強度比が実測と比べて逆になっている。これはMD計算においてHOH変角のポテンシャルに非調和近似関数を用いていないことに起因すると思われるので今後の検討課題である。
図1 液体水の近赤外スペクトル