共同研究報告書提出

共同研究報告書

研究区分	一般研究
研究課題	四国沖海底コアを用いた黒潮域における表層環境変動の復元
研究代表者／所属	高知大学海洋コア研究センター
研究代表者／職名	助手
研究代表者／氏名	池原実

研究分担者／氏名／所属／職名
	氏　　名	所　　属	職　　名
01	安田　尚登	高知大学海洋コア研究センター	教授
02	村山　雅史	高知大学海洋コア研究センター	助教授
03	河村　公隆	北大低温研	教授
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研究目的	黒潮は北赤道海流にその起源をもち，北太平洋の熱循環の中で熱エネルギーを熱帯から寒帯へ輸送する媒体として重要な役割を果たしている．黒潮の流路移動や勢力の強弱は，北西太平洋縁辺海への熱輸送を介して，海洋表層環境および陸上気候にも多大な影響を与えていると考えられる．そこで本研究では，四国沖コアを用いて黒潮域における最終氷期以降の表層水温，生物生産量，陸起源物質の大気輸送量などの古環境変動シグナルを詳細に復元することによって，黒潮の流路や勢力の時系列変動の実態を明らかにすることを目的とした．

研究内容・成果	本研究に供した試料は，四国沖の陸棚斜面から採取した海底堆積物コア（MD01-2422）である．およそ2万年前に相当する深度6mまでのコア試料から一定間隔（約25cm）で分析試料を分取し，50℃の乾燥器内で十分乾燥させた後，乳鉢内で粉末・均質化した．それらの試料を用いて，元素分析計オンライン質量分析計（NA-1500，Delta Plus）にて，堆積物中の全有機炭素濃度，窒素濃度の定量および有機物の炭素・窒素同位体比の測定を行った．また，アルケノン古水温を求めるために，高速溶媒抽出器（Dionex ASE-200）を用いてバイオマーカーを有機溶媒抽出した．抽出に用いた溶媒はジクロロメタン・メタノール混合液（95:5）である．抽出液中の中性成分を分離，濃縮し，さらにシリカゲルクロマトグラフィーによって4分画した． N-3画分に含まれるアルケノンをガスクロマトグラフ（Agilent 6890）を用いて分離・定量した．アルケノン不飽和比（UK37ﾕ）から古水温を計算する際には，Prahl et al. (1988) の換算式を用いた．　　約2万年前の最終氷期最寒期以降のアルケノン古水温は23-26℃を示し，その変動幅は3℃であった．アルケノン古水温が低下する時代は，16-13kyr， 11-10kyr， 4-2kyrであり，四国沖における表層水温が数千年間の周期で変動していたことを示唆する．最終氷期最寒期における古水温は約25℃であり，現在の初夏の表層水温に相当する．　全有機炭素量（TOC）は，最終氷期から退氷期初期で高く（およそ1%），11-7kyrの退氷期後半で徐々に減少し，完新世では0.6-0.8%を示す．TOCが高い最終氷期から退氷期初期にかけては，海洋表層における生物生産量が増加していた可能性が高い．　現在の日本列島南岸を東進する黒潮は，紀伊半島沖から伊豆半島沖にかけて蛇行し，その北側には冷水塊が発達することがある．冷水塊域では，より下層からの低温・高栄養塩の海水が表層に供給され，生物活動が活発化すると考えられている．地質時代において，これらの黒潮流路の蛇行とそれに伴う冷水塊の発達が顕著になれば，低温かつ高生物生産の表層水の存在として，堆積物中に記録される．本研究で新たに示された四国沖海洋コアの水温および生物生産量の変動傾向は，最終氷期から退氷期前半（17-10kyr）および完新世中期（4-2kyr）に黒潮が蛇行モードであった可能性を強く示唆している．一方，完新世前半（9-5kyr）の四国沖では，より温暖で生産量の低い黒潮水の影響が強かったと考えられる．したがって，いわゆる縄文海進（ヒプシサーマル）期には，黒潮が日本列島南岸を東進する状況であったと推測される．今後，さらに分析試料の時間解像度を上げ，より詳細な表層水温，生産量の復元を行い，黒潮流路の変遷史を明らかにしたい．