北大低温研 大気海洋相互作用分野

セミナー案内


2008年度・極域セミナー

日時:2009年 1月14日(水) 15:00-18:00
場所:低温研 研究棟2F 講義室
発表者:豊田 威信
題目:季節海氷域の比較的小さな氷盤の大きさ分布について
要旨:
季節海氷域においては大小様々な氷盤が存在している。これらは乱雑に分布しているというよりは、一般的には氷盤分布は自己相似性(フラクタル)の特徴を持つことが知られている。しかしながら、従来の知見は直径100m以上の比較的大きな氷盤を対象とするものが主流であり、比較的小さな氷盤の大きさ分布についてはまだ良く知られていなかった。氷盤の大きさ分布は全周囲長に影響を及ぼすため、海氷の成長融解過程を理解する上で重要な情報である。
 従来の解析結果の問題点は、多くの場合に累積個数から見積もったフラクタル次元が2を超えるという点にあった。このことは、比較的小さな氷盤は異なる分布の特徴を持つことを意味する。実際、2003年のオホーツク海氷の解析結果から、直径30m付近を境に異なるレジームが存在することが見出された。2006年にウェッデル海、2007年に東南極海の観測航海に参加する機会を得たので、上記の解析を南極海にも拡張して行なった。
 その結果、ウェッデル海と東南極海の両氷縁域においても、オホーツク海と同様に直径20~40mを境に異なるレジームが存在することが見出された。興味深いのは、1)レジームの境界となる氷盤の大きさは氷厚と関連していること、2) フラクタル次元は、氷盤が大きいほうのレジームでは海域によって大きく異なるのに対して、小さい方のレジームでは約1.2でほぼ共通していることである。これらの結果の解釈について議論を行う予定である。

日時:2008年11月21日(水) 15:00-18:00
場所:低温研 研究棟2F 講義室
発表者:石井 大樹(MC1)
題目:Thin and thinner: Sea ice mass balance measurements during SHEBA (論文紹介)
著者 : D. K. Perovich, T. C. Grenfell, J. A. Richter-Menge, B. Light, W. B.Tucker Ⅲ, and H. Eicken
出典 : Journal Of Geophysical Research, Vol.108, NO.C3,8050, doi:10.1029/2001JC001079,2003
要旨:
北極の海氷が、年間を通してどのように成長・融解するかはよくわかっていない。本研究では、SHEBA(Surface Heat Of The Arctic Ocean)で得たデータ(1997年10月~1998年10月)を使って、海氷の厚さ・表面の種類に分けて、年間の質量収支を観測した。また、表面・底面・側面方向の成長・融解量を考察した。1997年10月の海氷厚は0.3-8mの空間的変動があったが、成長期と融解期はだいたい同じであり、全て年間収支はマイナスで全体として薄くなっていることが明らかになった。海氷の種類によって、成長・融解には変動があり、Pond iceは表面融解が大きくRidgeは底面融解が大きい傾向にあった。側面方向の融解率は、表面・底面に比べて大きいが、全体の量としては支配的ではなかった。また、平均底面融解量0.62mは他の年よりも非常に多かった。その要因として、leadから海洋に入る太陽放射の影響が考えられるので、その蓄積量と底面融解量を比較した。

発表者:金田 麻理子 (MC1)
題目:Freshening of the Ross Sea During the Late 20th Century (論文紹介)
著者 : S. S. Jacobs, C. F. Giulivi, P. A. Mele
出典 : Science 297, 386-389, 2002.
要旨:
過去40年間にわたるロス海での海洋観測によって、陸棚水とRoss Gyreの表層水が低塩化していることが明らかになった。低塩化の原因として降水量の増加や海氷生成の減少、西南極氷床の融解の増加などが考えられるが、はっきりとした原因は分かっていない。大陸棚西部において陸棚水の低塩化が起こっていることが分かった。またロス棚氷フロントの東端でも低塩化が起こっていることが分かった。Ross Gyreでの塩分低下は大陸棚に比べて2倍なので、陸棚水の塩分低下は外側に起源があると考えられる。塩分低下の原因を調べるため、酸素安定同位体比(δ18O)を調べたところ強い陸氷起源の寄与を示唆している。ロス海での低塩化を容易に説明することはできないが、低塩化は降水の増加や海氷変動の影響を上回り進行しているので、西南極の棚氷のロス海の東側での融解が加速していることを示唆している。
日時:2008年10月29日(水) 16:20-18:00
場所:低温研 研究棟2F 会議室
発表者:飯島 裕司
題目:
南大洋における海面水温の時空間変動に伴う大気場応答の研究
要旨:
中緯度海洋の大気海洋相互作用に関する最近の研究結果は、海面水温の空間変化に応答する海上風の変化を示し、海洋から大気への影響の重要性を示唆している。この海面水温の空間変化に対する海上風の変化の割合は、黒潮域・湾流域・南大洋などの海域ごとに異なる値を持つことが分かっているが、それについての明確な回答は無い。         
そこで、本研究の目的は、南大洋においける特徴的な水温を持つ複数の南極周極流フロントについて解析することによって、海面水温の空間変化に対する海上風の変化量の違いを明らかにすることである。

その結果、海上風ベクトルに直行する海面水温勾配の成分に対する海上風の発散の割合は、冷たい海面水温に特徴付けられる南極周極流フロントほど、大きくなる結果であった。また、背景場の風速が大きくなるにつれ、その割合もまた大きくなる傾向にあった。以上の結果から、海面水温の空間変化に対する海上風の応答には、背景場の水温と風速に対して依存性があることが示唆された。
日時:2008年10月22日(水) 16:20-18:00
場所:低温研 研究棟2F 会議室
発表者:青木 茂
題目:
オーストラリア-南極海盆における低気圧性循環像の確立に向けて
要旨:
南極大陸沿岸域は、冷たく重い南極底層水の生成域であり、世界中の大洋の底・深層水を供給している。南極底層水の形成海域としては、オーストラリア-南極海盆にあるアデリーランド沖の重要性が近年指摘されており、この南極底層水がどのように形成され、低緯度へどう輸送されていくのかを把握することは、地球規模の深層循環を考える上で非常に重要な課題である。近年我々の実施したケルゲレン海台沖の西岸境界流域における観測では、アデリーランド底層水の低緯度への順圧的な輸送が捉えられた。この順圧的な輸送は、ケルゲレン海台を西岸境界とする大きな低気圧性循環の一部を成している可能性があるが、現在のところこうした低気圧性循環の全体像については共通認識が得られていない。Bindoff et al.(2000)は、集中アレイ観測に基づき、東経90度から110度の間に比較的小さな低気圧性循環の存在を見出した。一方McCartney and Donohue (2007)は、主としてWOCEの成果に基づいて、より規模の大きな低気圧性循環像を提出した。この循環像ではBindoff et al.(2000)の2倍以上の流量があり、南極沿岸に80Svに及ぶ強い西向き流(0.3m/s程度の幅広い流れ)が存在することが特徴的である。

このように議論の分かれる海盆全体における流れの描像を把握するため、沿岸近傍における流速・密度構造について、これまでの研究に加え、新たに1)氷山の漂流、2)アルゴフロートによる漂流流速場・密度場、3)OFESの流速場を用いて検討する。その結果、沿岸流には顕著な季節変動や空間依存性がみられたが、概ね0.1m/s前後の流速値が得られた。これは McCartney and Donohue(2007)の値より顕著に小さい。彼らは大きな流量をスベルドラップバランスによりサポートしていることが伺えるが、その際に海底地形の影響を無視していることからも、彼らの沿岸流の見積もりは過大である可能性が示唆される。
日時:2008年10月 8日(水) 16:20-18:00
場所:低温研 研究棟2F 会議室
発表者:二橋 創平
題目:ActiveとPassiveのマイクロ波衛星観測からわかるオホーツク海の沿岸ポリニヤの特徴
要旨:
オホーツク海の北部沿岸には、シベリアからの寒気の吹き出しにより、ポリニヤ(薄氷域)が形成される。特に北西陸棚域の沿岸ポリニヤでは、非常に活発に海氷が生産されており、結氷に伴う多量のブラインの排出により、オホーツク海のみならず北太平洋もふくめて、表面で形成されるものとしては一番重たい dense shelf water (DSW)が形成される。このDSWは、北太平洋中層水のventilationの主なsourceであり、北太平洋スケールでの大きなオーバーターンを作っていると考えられている。しかしながら、オホーツク海に限らず沿岸ポリニヤ域は現場での観測が極めて困難な海域であり、沿岸ポリニヤがどのように形成され、どれだけ広がり、どのような厚さや種類の薄氷で覆われているかという『ポリニヤメカニズム』は、詳しく分かっていない。本研究では、マイクロ波散乱計(QuikSCAT/SeaWinds)とマイクロ波放射計(Aqua/AMSR-E)、すなわちActiveとPassiveのマイクロ波衛星データを用いてオホーツク海の沿岸ポリニヤを調べ、ポリニヤメカニズム解明の糸口を探った。

薄氷厚データから、ポリニヤ域の氷厚は大部分で0.1m以下であった。散乱強度との比較から、ほとんどの場合、散乱が小さい海域と薄氷域(氷厚: <0.1 m)が、よく一致した。サハリン東岸の沿岸ポリニヤ域でice-profiling sonarにより現場観測されたice draftとの比較からも、薄氷の場合散乱が小さいことが示された。一方で、沿岸ポリニヤ域の散乱が逆に周囲より大きくなることが数回あった。薄氷は、グリースアイス, ニラス, はす葉氷に大別することができる。グリースアイスやニラスは表面が鏡のように滑らかであり、散乱計による散乱は他の種類の海氷より小さい。一方、はす葉氷には氷盤同士が衝突する際に形成される出っ張った縁が存在し、これが散乱を大きくさせると考えられている。従って通常の沿岸ポリニヤ域は、グリースアイスやニラスで覆われていると考えられる。沿岸ポリニヤ域での散乱が大きかったときは、近くを低気圧が通過したときに対応し、この荒天によるうねりのために、はす葉氷が形成された可能性がある。沿岸ポリニヤの縁には、散乱が大きい帯状の領域が確認された。ここではポリニヤ域より海氷表面が起伏に富んでいると考えられ、海氷の漂流が収束場になっている可能性が示唆される。
日時:2008年 4月23日(水) 15:00-18:00
場所:低温研 研究棟2F 会議室
発表者:江淵 直人
題目:道北日本海の沿岸湧昇について-道北域沿岸水温データベースの解析
要旨:
道立稚内水産試験場との共同研究の一環として入手した道北域沿岸水温データベースを解析した.このデータベースは,道北域の水産技術普及指導所や漁協が実施した多層連続水温観測やSTD観測などのデータを集めたもので,沿岸域には限定されるが,時間・空間ともに非常に密なデータが得られている.その解析例の一つとして,道北日本海の広範囲で観測された沿岸湧昇の例について紹介する.

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